第6話 双子の【剣士】でも違うこと

 説明しよう、【いっそのこと、こいつらを師匠にしちゃえ!】作戦とはなにか。


 それはこの2人にしっかりと冒険者としてのノウハウを伝授して、後は2人を師匠として新たに来る弟子候補共の防波堤になってもらう事である。

 防波堤----つまりは、面倒な指導とかをこいつらに丸投げするという意味の、だ。

 俺は2人の師匠として軽く顔見せとかするくらいで、後は2人に任せて、面倒な後続の冒険者達を相手を任せる。

 まさに夢のような作戦なのだ!


 ----そのためには、この2人に、早く師匠として教えられるくらい、立派になってもらわなくては困るのだ。




 ユウキとチエの2人によるゴブリン退治は、順調に進んでいた。


 出来うる限り群れに囲まれないように注意していたのも理由の1つだけれども、2人の真剣さが関係していた。


「おっしゃああああ! 行くっすよぉ~!」

「……やる、よ」


 先程までの気負った感じはなく、2人は気合を込めて剣を振るっていた。

 やっぱり、俺の話に触発されて、2人は目標を決めて、戦うようになったからであろう。


 何事も、しっかりとした目標があると違うなぁ~。やっぱり。


 俺が倒したゴブリンはノーカウントだったけれども、その後、ユウキとチエの2人は合計でゴブリン14体を討伐した。


「(依頼書の報酬通りだと、銅貨24枚かぁ~。Gランクの冒険者ならばこんなもんだろう)」


 とまぁ、そのような端した報酬額よりも、重要になってくるのが、やはりこれだろう。


「おっ! なんか、光が----!」

「ふわぁ……!」


 14体目のゴブリンを倒した時、2人の身体を真っ白な光が覆ったのである。

 2人はびっくりしているようだが、俺はその光を見てパチパチっと、拍手をした。


「おめでとう、2人とも。どうやら今ので、【強度上昇レベルアップ】したみたいだな」


 ----【強度上昇レベルアップ】。


 それは魔物を多く倒すことなどによって起こる、身体能力などの強化である。

 神様からの贈り物たるジョブは、一生そのままという訳ではなく、個人の働きに応じて、どんどん進化していくのである。


 それが、【強度上昇】。


 レベルが上がれば、攻撃力や素早さなどの身体能力も上がる。

 ジョブに関連した技も閃いて、いきなり使えるようになったりもする。


 そんな良い事尽くめの【強度上昇】、それの発生を知らせるのが先程の白い光なのだ。

 【強度上昇】というのだけでもお祝いするくらい凄いことなんだけれども、それが双子揃ってとは、本当に珍しい。

 息ぴったりとは思ってたけど、こんなところまで一緒なんてねぇ~。


「これで、ゴブリン退治に関しては心配いらないだろう。それと恐らく、ステータスに【剣士】ジョブの技が閃いているはずだ」


 「見てくれ」と言うと、2人とも揃ってステータスを確認する。


 "ステータス"と言うと、自分の目の前にステータス画面が現れるのだ。

 神様の加護の1つみたいなんだけれども、自分の能力がこうして分かりやすい数値として出るって、凄いよなぁ。やっぱり。


 そしてユウキとチエは2人でひとしきり喜んだ後、俺にそのステータス画面を----えっ? なんで俺にステータス画面を無言で見せてくるの?


 いや、確かに本人の許可さえあれば、ステータス画面を見れるけれども。

 でも、なにこれ、ヤバくない? 普通に怖くない? なんで、無言なの……?


「----? 師匠、なんで見てくれないんっすか?」

「弟子……確認は、大事、ですよね?」


 なるほど、「師匠として見てくれ~」って事ね。


「はいはい、了解しましたよ~っと」


 2人に見せられたステータス画面を、ざっとだが、確認する。



===== ===== ===== =====

〇ユウキ・ソルナ レベルアップ 剣士Lv.0/20→1/20

>経験値が一定に達成しました

>体力に、上昇補正がかかります

>攻撃力に、大幅に上昇補正をかけます

>防御力に、大幅に上昇補正をかけます

>敏捷に、上昇補正をかけます

>スキル【縦一文字斬り】と【横一文字斬り】を取得します

>スキル【波動斬】を取得します

>スキル【落雷斬】を取得します


〇チエ・ソルナ レベルアップ 剣士Lv.0/20→1/20

>経験値が一定に達成しました

>体力に、上昇補正をかけます

>攻撃力に、上昇補正をかけます

>防御力に、上昇補正をかけます

>敏捷に、大幅に上昇補正をかけます

>運に、上昇補正をかけます

>スキル【縦一文字斬り】と【横一文字斬り】を取得します

>スキル【波動斬】を取得します

===== ===== ===== =====


「----まぁ、レベル1ならこんなものかなぁ~」


 そこまで2人に大きな差はなかった。

 まぁ、そりゃあ色々と差はあるけれども、同い年----それも双子で【剣士】という同じジョブならば、この程度なのだろう。


 ステータス画面を見終わったので「もう良い」と返すと、即座にユウキの方が質問する。


「はいっ、師匠! 俺達、師匠から"縦一文字斬り"とかを習ったのに、スキルでも出るって、どういう事っすか? これって、レベルが上がれば、自動的に習得できたって事っすか?」

「おっ、なんか鋭い指摘」


 ユウキって、一直線に突っ走っちゃうタイプに見えて、実はけっこう、したたかだよなぁ~。

 こう、剣の振りとかからでも性格って分かってくるんだけど、彼の剣は着実に一歩一歩進んで行くという実直さが垣間見えるんだよな。


「うん……気に、なる?」


 ちなみにチエは、どちらかと言えば、大雑把な感じ。

 "縦一文字斬り"や"横一文字斬り"もしっかりと綺麗なんだけど、足の運びとかを見てても、ちょっぴり雑なところがあるから、安定性に欠けるんだよ。

 ----まぁ、今のところは大きな問題になるほどではないんだけど。


「で、スキルの話だっけ。スキルってのは、あくまでもジョブをくれた神様が用意した技であって、自分が使えるようになった訳じゃないんだよなぁ~。

 ----って、口で言っても分からないか。実際に見せたら分かるか」


 俺はそう言って、懐から1本の短刀を取り出す。

 剣の方が2人にとっては分かりやすいだろうけれども、【暗殺者】は狭い所でも活動しやすい短刀の方が使いやすいし。


「これから披露するのは、【暗殺者】のスキルの1つで、【疾風突き】というスキルだ。

 スキルの説明をするとしたら、"疾風のように速く、目の前を、短刀で突く"というスキルだ」


 俺は短刀を持ったまま、下へと向けたまま、説明を続ける。


「スキル【疾風突き】」


 スキルを発動すると、いきなり短刀を持った腕が前へと向き、そしてなにもない空中を突いていく。

 短刀を持った腕以外は影響はなく、俺は気軽に別の手で空中に文字を書いているくらい余裕がある。

 3発、なにもない空中を短刀の鋭い突きが炸裂する。


「----と、スキルってのは、"決められた動作を行う"というイメージに近い。例え、振るなんてあり得ない姿勢だったとしても、スキルを発動させたら【疾風突き】は発動する。

 そして、スキルの影響のない部分では、別の動作が出来る。つまりは、他にも行動が可能となる」


 だから、例えばこういう事だって出来る訳だ。


 俺は懐からもう1本、今度は剣を取り出す。

 片手に短刀、片手に剣、という状況だ。


「そんでもって、それを応用すれば、こういう事も出来る」


 俺はそのまま、もう一度、【疾風突き】のスキルを発動させる。


 すると短刀を持った手が勝手に、先程と同じように綺麗な三段突きを披露する。

 そして、俺はもう片方の手で持った剣を、縦や横など、【疾風突き】でカバーできない部分に放っていた。


「「おぉ~!」」

「まぁ、極端な例だが、スキルは決められた動作、お前らの【縦一文字斬り】だったら、縦に綺麗に斬る、ってのをやるって所だろう。けれども、普通に自分の意思で発動したのならば、意外と応用が利く」


 "相手が急に、身体を捻ったから合わせよう"、とかね。


「スキルの方で、ある程度は誤差も効くよ。真っすぐ斬るって言っても、それだけだと相手に避けられちゃうから、そういうのもしてくれる。

 けれども、基礎がちゃんと出来てないと、俺としては難しんじゃないかと思うんだ」


 スキル任せの戦い方だと、スキルに頼れない状況になった時、困ると思うんだ。

 どのスキルを使っても、倒せない相手とかが出てきたときに。

 で、そういう奴から、順に死んでいくんだ。


「あと、普通でも出来る方が、スキルも強いぞ。だから、訓練していて損はないぞ」

「「はいっ! これからも精進します、師匠!」」


 うむ、返事が良くて、よろしい。


「おっしゃああああ! 燃えてきたぜぇ! 【波動斬】! 【波動斬】!」


 ユウキは今、手に入れたスキルを試したくて仕方がないのか、俺達から距離を取って、早速【波動斬】を使っている。

 スキルの発動と共に、剣から衝撃波が放たれていく。

 ----うん、ちゃんと出来てるみたい。


 ユウキとは対照的に、チエの方はまだ気になる事があるのか、俺から離れない。


「えっと……あと、もう1つ、質問」

「"兄には【落雷斬】があるのに、自分にはないのは何故?"ってか?」


 俺がそう言うと、チエが「なんで分かったの?」と驚いた顔をしている。


「それは個人の差だ。同じ双子だからって、全てが同じな訳じゃないんだ。考え方だって違うだろう?」

「あっ……大切なこと、の話?」

 

 そうそう、"冒険者にとって大切なこと"の話。

 ユウキは「強さ」、そしてチエは「安定」と、2人して違うことを冒険者に求める事が違っていた。


「たとえ、双子だったとしても、同じジョブだとしても、同じ道を辿るって訳じゃない。

 お前とユウキは、性別も違うし、考えていることだって違うんだから」

「……うん」

「だから、お前なりの、しっかりとした武器を探せ」

「……武器?」


 キョトンとした顔をして、自身の剣を見るチエ。


「違う、武器ってのは、強さって意味だ。お前だけの強さ、お前だけの持ち味」

「持ち……あじ……」

「そう、お前だけの強さ」


 まぁ、それが分かる前に、やっぱり大抵は死んじゃうんだけどね。


 

「----さて、依頼もクリア出来たことだし、2人とも帰るとするか」

「「はぁ~い!」」


 ゴブリンも、14体倒して、ちゃんと討伐証明となるゴブリンの耳も手に入れといた。

 2人にちゃんと教える事も出来たし、これで後は各々が頑張ってくれたら、俺の作戦、【いっそのこと、こいつらを師匠にしちゃえ!】作戦の方も上手く行くだろう!


「(持ち味が大事だとか、スキルの有用性とかは教えた。後は応用編と題して、なんか凄そうな技を見せて、《お前達も、頑張ればこれくらい出来るようになる。これが俺のオリジナル技だぁ!》とか言っておけば良いだろう。うん、完璧な作戦だ!)」


 あぁ、早く帰って、酒を飲みたいわぁ~。



==== ==== ====

【Tips】ステータス画面

 神がジョブと共に、与えてくれる魔法の一種。自らの力を数値化して、可視化する

 初期設定では自分以外には見えないが、ステータスの本人が許可をすれば、他人にも見せることが可能となる。また、鑑定魔法など一部の魔法には、このステータスを強制的に見破る魔法も存在する

==== ==== ====

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る