第5話 なにが大切だと思う? ふふっ……!
----いや、俺ってさ。十分に、気遣い屋だと思うんだよね。
冒険者の指導依頼だって、俺の【暗殺者】としてのスペックをフルに活かせば、何百回と逃げおおせることだって、簡単に出来る訳なんだよ。
それなのに、ちゃんと対応して、ジョブが違うのにアドバイスなんかりしたりしてさぁ!
「だからその点を、ちゃんと覚えて、もうこれ以上、面倒をかけるなよ! お前ら!」
「「はいっ、師匠!」」
----という訳で、俺はソルナ兄妹と共に、依頼書にあった東の森とやらに向かっていた。
2人はしっかりと装備を整えていて、一方で俺はかなりラフな格好だ。
正直、街ではなく魔物に襲われてもおかしくない場所で、ラフな格好でいるのは、流石に抵抗があるが、仕方がない。
しっかりと装備を整えた状態で出ると、ギルドマスターと【勇者】になにか良からぬ事を言われそうだからな。
「いやぁ~! 師匠と一緒に冒険だなんて、楽しみっす!」
「わく、わく……!」
楽しんでいるソルナ兄妹には悪いが、俺が来たのは冒険なんかではない。
俺が2人の冒険について来たのは同行であり、そして"修正"だ。
事の発端は、俺のミスのせいだ。
【剣士】である双子に、"無意識に、縦斬りと横斬りを使いこなせ"などという修行を行わせて、長期的にかかるのにするのは、良かったと思う。
だが、これは素人目では出来るようになったのかすら、判断できない修行だ。
これでは、永遠に俺に「師匠~!」という名目にて、付きまとわれること大ありだ。
----なので、大幅に修正をかけることにした。
俺は歩きながら、2人に師匠らしくアドバイスをかける。
「ユウキ・ソルナ、そしてチエ・ソルナの2人に、師匠として質問を与えてやろう」
俺の言葉に、ソルナ兄妹は聞く姿勢を取る。
……ここで、「ギルドに行って、お酒を買って来い!」とパシリにしても聞き届ける感、ある気がするなぁ~。
いや、ここは師匠として、しっかりとしたアドバイスを見せかけて、プランに繋げるのだっ!
「ずばり、"冒険者として一番大切なこと"とはなんだろうか?」
俺がそう聞くと、黒髪の頭、そして白髪の頭が揃って揺れる。
「やっぱり! 強さじゃないっすか!」
初めに回答したのは、黒髪----兄であるユウキの方だった。
「冒険者なんて、最終目標としてはドラゴン討伐だとか、ダンジョン最下層にいるダンジョンマスターの討伐! 討伐だけじゃなくて、未開の地を見つけたりだとか! そういう、熱い夢物語とかが、俺はやりたいっす!」
「なるほど、ユウキは冒険に情熱を求めるタイプか」
ユウキは、冒険に夢を見ている情熱家だなぁ~。
こういうタイプは、自分に討伐出来ない魔物に、無謀にも挑戦する。
そして、死ぬ。
うん、そういうタイプだな。
「私は……安定、かも?」
兄が話し終わるのを待っていたかのように、妹のチエがそう答える。
「冒険者の仕事って……みんなの、ため? 病気の人とか、骨折したり……とか? そういう、人のために……なりた……い?」
「----えっ? チエ、お前はそういうのが好きだったりするのか? 俺、全然知らなかったぞ!」
「うっ、ん。……言って、なかっ……たっ?」
チエは、ユウキと違って、人のためになりたいタイプなのかぁ~。
こういうタイプは、救いたい人達のために無理して冒険して、無謀にも強敵にいきなり出会ってしまう。
そして、死ぬ。
うん、そういうタイプだな。
「2人とも実に良い答えだ。2人がどういうタイプなのかが良く分かる、良い答えだった」
まぁ、2人とも死んじゃうけど。
「しかしながら、俺が用意していた模範解答とは違うのだ。その回答では、俺の弟子としては不適格だ」
2人の回答を褒めつつ、否定はしない。だが、肯定もしない。
俺がしたのは、ただ俺が求めていた答えとは違っていて、俺を師として仰ぐのならば、この答えを受け入れろという……まぁ、そういうことだ。
「うっす! それなら、どういうのが正しい解答なんっすか! 教えて欲しいっす!」
「是非に! 是非に!」
何回も止めろと言っているのに、こいつらは俺を師匠として呼んでくる。
そんな2人だ、こういう言い方ならば受け入れると思っていたが、予想通りっ!
「簡単な話だ、だが----その前に、やるべき事がある」
俺が指差す先、そこの何の変哲もないただの草むらに目を動かした2人は、そのまま頷いて突っ込んでいった。
《グギャアアアオ!》
「やっぱりっす!」
「ゴブ、リン……!」
俺が指差す草むら。そこに向かった2人を待ち受けていたのは、ゴブリン3匹。
そう、今回、2人のクエストの相手である。
俺にとっては小さな子供にしか見えないユウキとチエの2人から見ても、二回りくらい小柄な、だけれどもお腹はでっぷりと膨れ上がった身体つき。
手にしている武器は短刀や棍棒、それに折れた剣などとバラバラではあったが、どれも血がべっとりと固まっていた。
「(おぉっ、あれらは冒険者の装備の成れの果て、といった所か)」
ゴブリンは、正直なところ、冒険者でもなんでもない村の力自慢が軽々と追い払えるくらいの力で、2人も普通に倒せるかもなんだけど、めちゃくちゃ数が多い。
で、あれらの武器は、そうしたゴブリン退治と調子に乗った奴らの遺した武器、なんだろう。
「気負い過ぎるなよ、下手すると死ぬぞ」
「「はいっ!」」
とまぁ、2人はそう言って、どう見ても、気負い過ぎといった感じでゴブリンと相対す。
少し気合いを入れすぎな感じだが、2人のちゃんと綺麗でしっかりとした斬撃はゴブリンの柔らかい身体を真っ二つに切り捨てる。
1人で1体ずつ、しっかりと。うん、良い調子……って、おいおいっ!
《グギャアア!》
「バカだなぁ、こいつ」
3匹目の折れた剣を持ったゴブリンは、なんと俺に向かってきたのだ。
ゴブリンは魔物としてもバカで、アホで、考えなしだという事は理解していた。
いたのだが……まさか俺に向かってくるなんてなぁ~。
確かにこの3人の中では一番ラフな格好だけど、俺は一番強いSランク冒険者だぞ?
どうやら力量の差も分からない奴だな。
そういうヤツは、無謀にも
「よろしい、ならば仕方ないな」
冒険者資格は停止中で、俺はゴブリン討伐するなどの依頼を、一切受ける事が出来ない。
だがしかし、ゴブリンが向こうから迫ってくるのなら----
「----それは、ただの自己防衛だよな」
すーっ、と俺の姿がゴブリンの前から消える。
透明になったのではない、【暗殺者】のスキルの1つである、【
《ゴブっ?!》
いきなり獲物である俺の姿が消えたことで、動揺しているようだが、俺には関係ない。
すぐさま背後まで回り込むと、そのまま折れた剣を手から奪い取る。
「(武器がないから、仕方がないから現地調達したんだけれども----やっぱり悪いな、これは)」
ろくな手入れもしておらず、もって1回か、2回くらい----?
「----っと、やるしかないか」
まだこちらを【影歩き】のスキルで見失っているゴブリンに、俺は横に斬りつけて----
《クキャッ?!》
「で、そのまま回転して----」
剣を横に振る勢いに沿って、足でクルリと一回転しながら斬りつける。
そして、そのまま縦に斬りつける。
横に斬りつけられて血が出て後ろに下がっていたゴブリンに、間髪入れずに縦に斬りつける。
"横一文字斬り"から流れるように繋ぐ"縦一文字斬り"、これもちゃんと基礎ができるから出来る、連結技----。
「----っと、返すわ」
そのまま倒れていくゴブリンに、手向けと思いながら折れた剣を返す。
まぁ、この連結に耐えきれなくてバラッバラになってしまってるから、ゴミを押し付けたみたいな感じだけど。
「----っと、今の俺は同行係っと。で、2人は----って」
腕が鈍ってない事を確認して、俺は本来の仕事であるソルナ兄妹のかん……いや、見守ることに戻ろうと思ったんだけど----
「「凄いです、師匠っ!」」
「うわっ!」
近いっ、近いって!
「あの流れるような動き、めっちゃ半端なかったっす! 俺もあぁいうのが出来る、カッコいい男になりたいっす!」
「カッコ……よかった……!」
なるほど、どうやら2人の弟子は、俺の動きに見惚れてしまったようだな!
ふふんっ! まぁ、仕方がないけどなぁ~!
最強の強さっていうのは、それは美しいんだからな!
見た人が憧れる、そういうカッコよすぎる技ってのが、真の強者の技なのだから。
「惚れるかぁ~、そっか。それは仕方ないなぁ~」
うんうん! この2人、めちゃくちゃ良いじゃないか!
誰だ、こいつらから早く離れようとした奴はぁ!
……あっ、俺か!
「----はっ!」
いけない、いけない。しっかりしろ、俺。
危うく、褒められて調子に乗って、師匠としての道を爆走するところだった。
ダメだぞ、俺は飲んだり踊ったりして、楽しく、愉快に暮らすんだからな!
「ごほんっ、さっきの質問----そう、"冒険者として一番大切なこと"についてだが、俺の模範解答はさっきの剣技だ」
「剣技、っすか?」
「剣技が、一番大切なこと……ですか?」
「まぁ、正確に言えば、"後輩に憧れられる存在になる"だな」
どうしてもだが、冒険者ってのは、頭打ちの機会が来る。
その時に大切となってくるのが、なにか大切なモノがあるってことだ。
「恋人だったり、あるいはお金でも、趣味でも何でもいいが、そういう大切なモノがある冒険者ってのは、生き残る確率が高いってのが、冒険者内での常識だ」
なにがなんでも生き残る----そういう強い思いが、自分の実力以上の成果を発揮するのは、単なる絵物語や絵空事ではない。
実際に、そう言ったケースは多々ある。
「でも、なかなかそういうのが、すぐに見つかるモノではない。そこで、憧れを、その大切なモノに入れておくのだ」
「「憧れを……」」
「そうだとも」
俺は2人の肩を掴みつつ、2人に覚えこませる。
「俺は師匠として2人に技を見せた、すると2人はその技が凄いと思った。そう思われると、俺はもっと凄い技を見せたい、師匠としてカッコいい技を見せたいと思った。
そういう、"弟子にカッコいい姿を見せたい"という向上心が、技のキレを格段に上げてくれる」
まぁ、俺がこんなにカッコいい技にまでなれたのは、彼女の、故郷の幼馴染のハルのおかげ、なんだけどな。
今頃、なにをしてるんだろう……ハルは。
「まぁ、実際、この想いは大切だぞ? 後輩に、弟子に教えようと思ったら、教えられるくらいカッコいい技にしようと思う。すると、カッコ悪い部分、つまりは直すべき個所が見えてくる。
----お前らの最終目標は、いや、冒険者の目標は、そういう指導にある、と俺は思うぜ」
「「師匠~!」」
うんうん、なんか涙目になってるし、良い感じ! 良い感じ!
「という訳で、お前らに俺の技を教える! そしてお前らは、俺のところに来るだろう、同じ【剣士】に教えられるようになる!
……分かったな、ユウキ? それにチエ?」
どうだ、どうだ?
「はいっす! 俺、頑張って師匠のようになるっす!」
うん、単純な兄で良かったぁ~。
「分かっ……た。頑張るっ!」
うん、こっちも乗りやすい妹で良かったぁ~。
2人とも忘れていないだろうか、俺が師匠と呼ばれるのを嫌がっていたことを。
そう、"冒険者として一番大切なこと"が、"後輩に憧れられる存在になる"というのは、嘘であるっ!
俺の模範解答は、"楽して儲けたい"だ!
やっぱり、冒険者である以上、危険なリスク張る分、儲けられるようになりたいよね!
ぶっちゃけ、俺はその想いだけで、ここまで成り上がったぜ!
で、2人にはこれから俺の指導を受けて、そしてしっかりと理解して、"後輩に憧れられる存在"になってもらおう。
そうして、俺の元に来る他の有象無象の弟子候補達に、指導してもらうのだ。
これぞ、プランB!
【いっそのこと、こいつらを師匠にしちゃえ!】作戦、スタートだぜ!
==== ==== ====
【Tips】
魔物の一種で、非常に弱いが、繁殖力が高い魔物。成長力も高く、他の魔物よりも速く、上位種へと進化を遂げるのが多いのも特徴
拾ったモノを武器としており、自ら武器を作り出すことはない。また、群れる割には、仲間意識が非常に薄いことも特徴で、仲間の死にも一切動揺せずに向かってくる
==== ==== ====
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます