第4話 いや、俺は行かないからな!
双子の【剣士】の、ユウキ・ソルナとチエ・ソルナ。
そんなソルナ兄妹に育成指導をしてから、およそ1週間後。
ソルナ兄妹とは別に、新米冒険者を3組ほど指導した。
エルフの【
仲が悪い龍人とドワーフ、2人の仲をどう取り持つかを考えたり。
【遊び人】である男性に、どうすれば【賢者】に
指導が楽しくなかった訳ではないけども、育成指導をすると金になったのが、嬉しかった。
冒険者資格は停止してるけど、今回の育成指導は、"引退した冒険者による指導"というのに当たるみたいで、別にしても問題ないらしい。
で、依頼である以上は、ちゃんと報酬も貰えて……懐が温まって、嬉しいなぁ!
----で、今日は、冒険者ギルドの酒場ではなく、ただ街でのんびりと歩いて過ごしていた。
あぁ、さんさんと輝く太陽が、目に、目に染みるぅぅぅぅ!
「あっ、師匠!」
「お疲れ、様……」
のんびりゆったり、街並みを歩いていると、ユウキとチエの2人にばったり出くわしてしまった。
「げげっ、ソルナ兄妹かよ……」
今日は酒場で飲んでいるわけではないので、こういうのに絡まれるのはないと思ってたんだけどなぁ……。
と言うか、2日ほど前に、来たので、見たら思いのほか、飲み込みが速かったようで、十分だと判断した。
「「どうですか、師匠!」」
「うむ、剣に関してはちゃんと出来てる。お墨付きをあげよう。あとは、そのまま無意識的に、身体に染み込むくらい、その2つが出来るように頑張りなさい。俺に見せずとも良いから」
ってな具合に"免許皆伝だから関わるな"的なのを出した。
無意識的に縦も横も出来るようになるのには、恐らく数年はかかるだろう。
それくらいになれば、2人とも俺なんかに頼ることなく、やれるようになっているだろう。
なので、もう俺なんて必要ないんだけど。
と言うか、必要にして欲しくないんだけど。
会いたくないんだけど。
「どうしたんですか、師匠! 外にいるだなんて、珍しいですね! ……あっ、訓練ですか?」
「そう、なのですか……?」
ユウキは元気満々といった感じで剣を振るっており、それに続くようにチエも剣を出そうとする。
……って、おい! おいおいっ!?
「ばっ、バカか! お前らっ!」
「がつんッ!」と、2人の頭に拳を振り下ろしていた。
「「いっ、いたぁ~い!」」
「うるせぇ、2人ともバカだろ。おいっ!」
俺は、完全な男女平等主義者だ!
必要ならば男だろうと、そして女だろうと、頭をぶん殴れるぞっ!
「こんな街並みで、いきなり剣を抜くだなんて、なにを考えてるんだ? 人だって多いのに」
「「えっと、それは……」」
洞窟や森なんかで剣を抜くのと、街中で剣を抜くのは、絶対に違うだろ?
ここには、冒険者じゃない普通の街の人だって、居る訳なんだから。
そういう小さなところから、冒険者の信用ってのは生まれてくるもんだろう。
「師匠~! そんな気配りまで……! 改めて尊敬するっす、師匠!」
なんか、ユウキの瞳が、涙目になってるんだけど。
----まぁ~、褒められて嬉しくないと言われたら……ないんだけどねっ!
褒められるの、やっぱり嬉しいっ!
「でも……資格、停止?」
「うぐっ……!!」
チエ、止めてくれ……その言葉は、俺に聞くっ!
「チエっ! 何を言ってるんだ! あれは、ギルドマスターが悪いに決まってるだろっ! 師匠は、ハメられたんだ!」
「----っ! そう、だね……ユウキ」
"ペコリっ!"と、2人が俺に向かって、頭を下げる。
「「ごめんなさいっ、ブラド師匠っ!」」
「謝るな……俺が、みじめに見えるだろ」
「「ごめんなさいっ! 師匠っ!」」
だから……謝るな、って。全く……。
「そっ、そうだ! 師匠! 実は、師匠のことを探しに、ギルドまで行こうとしてたんですよっ!」
「(コクコクッ!)」
俺に、用事って----?
「チエ、例のヤツ----!」
「オッ、ケー。ユウキ」
チエはさっと、懐から1枚の依頼書を見せてきた。
「----これ、
===== ===== ===== =====
【討伐クエスト】
東の森で、ゴブリンを10体討伐すること。
討伐の証明は、ゴブリンの耳とする。
報酬;銅貨20枚(なお、それ以降は1体につき銅貨1枚を追加)
なお、この依頼は、ソルナ兄妹の監査役として、ブラド・ナル氏も同行することとする。
===== ===== ===== =====
「なんだよ、この依頼は?」
ゴブリンっていうのは、緑肌の小鬼の魔物で、初心者冒険者が倒すとしたら悪くない選択だ。
生きる事に必死で、女を見かければ襲い掛かり、男を見かければ殺そうとする。
まぁ、そういう必死さはあるんだけれども、せいぜいが必死な子供程度なんで、落ち着いてやれば大丈夫だ。
報酬に関しては、まぁ、そんなものかなぁ~、って程度かな?
銅貨3枚でギルドの食事1回分くらいと考えれば、今回の報酬がどれくらいのモノかが分かるかと思うんだけれども。
と、まぁ、そこら辺は納得した。
納得はしたんだけれど……最後の、備考の欄はなんだ?
「なんだよ、同行って----」
なんで、俺が同行するんだ……?
「それについては、私の方から説明いたしましょうっ!」
「うわっ! びっくりしたな、おいっ!」
なんでいきなり、後ろから受付嬢が出てくるんだよ!
なんか嬉しそうな顔で、資料を持ってるんだけど……。
----けれどもギルドとか、酒場以外で、受付嬢に会うの初めてだな。
「ブラドさん! ここで会ったのもなにかの
「ねっ?」と受付嬢がウインクをして、ソルナ兄妹も「コクコクッ!」と頷いていた。
ソルナ兄妹はさっさと店の中に入って行って、受付嬢は俺に手を差し伸べていた。
「ささっ、ブラドさんも早く! 早く!」
「……なんだろうな、せっかく外にいるのになぁ」
なんで外にいるのに、受付嬢やソルナ兄妹に会わなければならないんだろうか。
全然、外にいるっていう感覚がないんだけれども。
せっかく、今日は気分を変えようと思っていたのになぁ……。
☆ ☆ ☆
ともあれ、俺達は近くの酒場に入る事となった。
「らっしゃい! あんちゃん!」
おぉ、
ともあれ、なんか豪快な、カッコいいおっさんだなぁ~。
雰囲気も良い感じだし、こりゃあお酒の味も期待できますなぁ~。
よしっ! 今日は奮発して、お酒を頼むか!
「あぁ、どうも。とりあえず、お酒をくれませんか?」
「おぅ、あいよ! けれど、すまんな。酒は昼間は出してないんだわ」
「なん、だと……」
ガクッと、俺はその場に跪いてしまった。
「(ちっ、ちくしょぉぉぉぉ! 酒を出さない酒場って、なんだよ! おいっ!)」
「あっ、あんちゃん……? 大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫。大丈夫」
正直、膝はまだプルプルと震えていたけれども、俺は気力だけを頼りに、立ち上がる。
そして、先に座っていた3人のいるテーブルに座る。
「----で、なんだ? その顔は?」
「いや、何もないけど(笑)」
いや、受付嬢の意味ありげなその笑顔が、なんかイラっとしてしまうんだけど----。
「あの、師匠、大丈夫です? 良かったら俺のサンドイッチ、食べます?」
「えっと、ジュース。なら、あるよ?」
なんだろう、自称弟子共が俺に貢いでくるんだけど……。
俺、そんなにみじめに見えるのか?
「……ごほんっ! ともかくっ、今日、ブラドさんにお願いしたいのは、さっきの同行依頼書の事です」
「あぁ、それそれ。やっぱ、お前の仕業だったか」
まぁ、この受付嬢くらいだもんな。
俺に依頼をさせようとしてくるの、あるいは、酒場から追い出そうとしてくるのは。
「実は、ギルド内部がきな臭い事になっていまして、このままだとブラドさんが危ないんです」
「それって、ギルドマスターと【勇者】タツヤ・ドラゴニック・イチノセの、俺達パーティーを追放した面倒くさい2人組か」
「えぇ、そうです。あの2人はなんか画策しているみたいで」
あいつら……まだなにかしようとか、企んでるのか……。
俺、何もしてないのになぁ……。
まぁ、何が来ようが、どうでも良い。
最悪、こんな街、捨ててどこかに行けば良いだけだしな。
「ギルドマスターと【勇者】がどのような計画を練っているのか、正直まだ全容を把握しきれてません。
けれども、なにか良からぬ計画を立てているのは事実です。で、ブラドさんが狙われてると言う感じで」
「……嫌だなぁ、そういう裏で進んでいる感じの」
「ですので、この機会に炙り出そうかと」
----なるほど、俺が街から離れることで、あの2人がなにかをしでかすのではないかって。
それだったら、普通に"外に出ていて"と言えば良いのに、なんでこんな同行依頼書を出すのかは分からないがな。
「あと、単純に、どれだけ強くなったのかを、師匠さんに見て貰いたいと」
「「はいっ! 師匠!」」
……あぁ、なるほどぉ~。
"ブラド・ナルを外に出しておいて欲しい"というのを考えていたところ、この双子に"師匠であるブラド・ナルに成果を見てもらいたい"という考えを話す。
それが、見事に合致したため、今回の結果になったと----
「(いや、俺! 双子にお墨付きを与えたんだが?!)」
うん、バッチリと与えたはずなんだけどな!?
なのに、なんでこんな依頼を出す、なんてことをしちゃったんだよ!
「師匠、師匠! 師匠、最初に言ってましたよね!」
「----? ユウキくん、俺が最初に何を言ってたと?」
「"意識を失っても、動ければ良い!"って」
「うん、言ってないな」
なに、その怖い助言。
寝ているのに魔物を退治していたら、それはある意味、なんかヤバい病気だよ。
「ユウキ、違う……"意識せずともできるようになれば"、だよ」
「あぁ~、チエの言ってる奴なら、言ったかもなぁ~」
うん、確か、縦斬りと横斬りの2つを、意識せずとも身体が出来るようになれば、と言う話はした気がする。
まっ、そういう所まで出来るようになれば、普通にGランクの見習い冒険者からは脱出できるだろう。
けど、俺……それは見せなくても良い、って言ったよな?
なにせ、意識せずに縦斬りと横斬りが出来るようになるのは、まだまだ先の話だ。
冒険者として、かなりレベルアップした頃の、数年後に出来るかどうかの話だ。
俺も、そこまで付き合うほど、暇じゃない。
だからあれは、"もうここに来ないでくれ"という方便だったんだが。
「でも、それ……分かんない」
「そそっ! 俺達、その基準が分からないんっすよ! どこからがその段階なのかが!」
「あ~……まっ、確かに分かり辛いかもなぁ」
出来ているかを確認しようとしても、そんなの傍目に見たって分かんない。
出来てるかを自分で確認しようとしても、そう思っている時点で、意識しちゃってるからなぁ~。
「はっ----!」
……もしかして、これって失敗なんじゃないか?!
俺としては、早く俺に関わらないで欲しいと思っていたのだが、"無意識に斬る"だなんて高等テクを確認白だなんて、俺にだって出来ないだろう。
しくった、しくじった!
もう少し、分かりやすい、そう、出来たことが分かる訓練で自信をつけさせるべきだったのだ。
「よし、プランを変更だ」
「「へんこう?」」
そう、プランを変更する。
もっと分かりやすく、俺に相談せずとも自分達で熟練度を確認できる方法にな!
「よしっ、今すぐ修行内容を見直して----」
「あっ! じゃあ、その辺は実地でお願いします!」
----はい、これは前金分です。
とまぁ、俺の手に多少の銅貨を握らせる受付嬢。
「おい、俺は受けるってまだ一言も----!」
「「行きましょう、師匠! その修行、教えてください!」」
だから、師匠じゃないって!
あと、なんで行くこと、決定的な空気感を出すな!
絶対、俺は行かないからな! 行かないんだからな!
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【Tips】
ギルドが発行する、冒険者へのミッション。達成することで、報酬を手に入れる事が出来る
依頼として持ち込まれたモノを、冒険者が精査して難易度と報酬を設定する。なお、難易度によっては受けられる冒険者に限りがある
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