episode14 passion of cyborg

「ああ」と吐息が漏れた。スノウ・レンは僕を抱きしめてくれた。飼い猫の頭を撫でるみたいに、僕の髪を愛おしそうにすいた。二人は完全に酔っ払っていた。正義の話なんて微塵もしなかったし、正直そんなことには微塵も興味が持てなかった。あるのは心地よさと広がり続ける充足感。でもこれがずっと続かないことはわかってる。

 どこかで飽きてしまうのが、人間の性質だ。僕たちはどこかでつながりを面倒くさがっていて、それなのに時折どうしようもなく、サイボーグは渇望する。アレック、お前はどうして歩き続けられる? 立ち止まったっていいじゃないか。そこが君の受け持つ環境ならば。しかし、それは違う、と言う声が聞こえる。

 戦う。戦地へ送られ、テロリズムや反乱軍と戦う日々。何が正しいのか。

「自分で決めろ」

 上官はそう言う。アレックはスチュアートを殺したいだけだ。しかし、ミネルヴァ・シティは順調に復興していた。陰で操るスチュアートの正体になど目もくれずに。そのうち、アレックはスチュアートと対峙する。これは二項対立だ。彼らは争い、憎しみ、殺しあう宿命にある。そんなことは百も承知、千変万化のこの人生で、唯一の不変。

「過ちは許されないのか。怒りだけが真実なのか」とアレックはスノウに言ったことがある。酔っ払って、言いたいことを言っていい時に。そのたびに彼は、アレックはスノウに寄りかかっている。スノウは寄りかからせてくれる。ぎゅっと抱きしめてくれる。この人工的で無機質な体を。ゴムに毛が生えたみたいな体を。

 僕には何も残されていない。スチュアート以外のすべてを、あの時、エンド・ペヴェンシーの口腔に手榴弾を突っ込んだ時に葬り去った。全ては終わったかに見えた。終わらせることができて、新しいことが始められるような予感がした。しかし、それは違った。何も変わりはしない。それは内側の話だ。外側はめまぐるしく変化していく中で、内側だけが、駄々をこねる。君は何色でいたい?

「おれは群青色が好きなんだ。空とか見ていると、時々うれしくなる。夜明け前とかね」とスノウ・レンは言う。アレックは何も言わない。でも、戦っている。マシンガンの使い方を覚え、アサルトライフルの使い方を覚え、火器の使い方を覚え、消火方法を覚え、人の殺し方に長けていく。ああ。

 ――ああ、僕はいつか、スチュアートになってしまうような気がする。

 それが、アレックの最大の悩みだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る