episode13 hunger
目まぐるしく展開する戦闘を仔細に追うことなどできない。強い者は進撃し、弱い者は撃たれる。優しい者は味方の状況を確かめ、意地悪な人は死体を蹴飛ばして前に進む。どちらがいいかはわからない。それは正しさとか善悪を超えた話だ。
軍人は戦争を経験し、何かを学んでいく。そうすることしかできない? そうかもしれない。しかしサイボーグのアレックには軍人としての意識が足りないと思われることが頻繁にあった。軍隊は集団を見る。個人個人の実力こそ見ても、軍隊となってしまえば、それは一兵にすぎない。駒だ。
アレックはサイボーグの自分が駒だって思うだけで、気が楽になる。
「よう、アレック」「なに?」「スノウ・レンがお前と話してるんだぜ。もっと楽しそうにしろよ。一晩を明かした仲じゃないか」
「見張りを一晩やっただけだ。おまけにお前は持ち場を離れて、敵の酒飲んで酔っ払ってただけだ」と言うアレックの表情はサイボーグというには――機械的と言うには、あまりにも人間味があった。
人間味。
難しい言葉だ。それはどこから発露するものなのだろう。人の形をしていたら、人なのか? 人形が子供に疑似的な人間関係を築くために遊ばれるように、サイボーグも同じようなことをされているだけなのだろうか。つまり。
つまり、エンド・ペヴェンシーのしたかったことは軍人として人形のように戦うサイボーグを造り、それを利用して世界を平和にすることだったのではないか。いいや、違う。何をバカなことを。エンド・ペヴェンシーはそんな人間ではなかった。彼は興味のあることに一途になるだけの、努力もしなければ積み重ねもしない、天才だった。「おい」「え?」
「お前、おれ並みに顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「大丈夫」
そう答えた自分の顔に触れると、人の肉の感触があった。
――僕は人を求めているんだ。
人と話すことがこんなに楽しいことだなんて気が付いていなかった。アレックは困惑していた。自分が孤独のような気がしていた。世界が敵のような、すべてがスチュアートのものになっているような気になっていた。しかし、僕の周りにはこんなにも――こんなにも、なんだ? 優しい人がいる? 違う。
「お前は飢えているのさ」とスチュアートが言う。
「久しぶりだな。アレック」
「僕が餓えている?」
「そう。お前は愛情が欲しいんだよ。クリエイターだった脳が神経系が、必死にお前に仲間を作ることを求めてる。だから、お前はそうしようとしている。何を? そうさ、仲間を作ることをさ」
「僕は……」
「何だ?」
「僕は……」
「どうした、アレック?」とスノウは純真な思いと声と表情で、そう訊ねた。
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