episode9 live

 英語が分からない。言語なんて無意味だ。日本語なんてわからない。言語なんて無意味だ。スペイン語なんてわからない。言語なんて無意味だ。フランス語なんてわからない。言語なんて無意味だ。

 心と心が通じ合う時、我々はきっととても気持ちがよくなる。脳神経がどうとか、パルスが逆流しているとかそんなことを話したいわけじゃない。気持ちがよくなって、うっとりして、癒しがあって、時折それが感じられなくなって、それが寂しくて、でもごくまれに生じる気持ちよさが自分を人間なのだと錯覚させる。

 いいや、違う。

 僕はサイボーグだ。それ以外の何物でもない。性欲なんてない。肉欲なんてない。物欲も食欲もない。欲望が分からない。自分を探す。見つからない。情報体としての自分がいることを知っている。でもそれはただの情報で、エンド・ペヴェンシーが用意し、構築した世界に安穏としているだけなのだ。

 今日も人を殺す。言語の通じない人を殺す。殺すたびにだんだんと快感を覚えるようになっていく。死体に触る。ぬくもりが失われていく。徐々に、徐々に。冷たくなっていく。僕はその死体を愛する。自分にいちばん、近いものを模索した結果だった。きっと僕は死んでいる。いつ?

 エンド・ペヴェンシーを手榴弾で吹き飛ばした時だ。彼は肉片になった。眼球が飛び出したのが、見ものだった。その眼球を僕ははっきりと覚えている。文字を習った。文章の書き方を習った。記すことはできる。でもそれだけだ。言語が分からない。読めない。感じ取れない。音楽もわからない。気分が分からない。でも、快感はわかる。高ぶる気持ちと熱くなるからだ。溺れているみたいに必死に僕は、快感を探る。それだけがサイボーグとして、人間を真似することのできる手段なのではないか、と思う。でも、そう思ってない僕もいる。ファイト。

 誰かの声が聞こえる。ファイト。

 戦え、戦え、戦え。小魚の鱗がはがれることを、我々はどう形容しよう。戦闘は続く。戦場に送り込まれ、無機的に人体をバラバラにする。心臓を打ち抜く。足を打ち、動けなくしてから、頭を踏みつけて、「さよなら」と言う。そいつは泣きながら、小便を漏らしていた。「バカだね」と。

 スチュアートはアレックの変化に気が付いている。しかし、ドラゴンは何も言わない。面白がっている節さえある。早くここまで来い。喰ってやる。その絶望を。その虚無を。その空っぽを。どんな味だろうな。きっと俺はこう言うぜ。スチュアートは続ける。アレックはそんな声を聴いている場合ではなかった。戦地でがむしゃらに戦っていた。「コングラチュレーション」

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