episode8 endless waltz
軍人としての初任務は犯罪を犯した子供を殺すことだった。躊躇する気持ちもなく、ただおもむくままに引き金を引いた。子供は死に、銃声がとどろき、血潮が飛び散った。何も意味なんてない。しかし、アレックはそれに高揚した。人を殺すのが楽しいのではない。子供を殺めるのが楽しいのではない。ただ機械的に任務をこなしている自分を、誰かが認めてくれているような気がする。それが好きだった。
子供の脳は良い色をしていた。好ましいと思った。サイボーグにもそのくらいの判断能力がある。スチュアートは平気で人を喰らう。アレックも任務であれば、平気で人を殺せる。そこに何かの違いを見出すならば、大義だ。無駄なことをしている? むなしいことをしている? そんなことは知ったことではない。終わりの始まり。
「ねえ」とアレックは独り言をつぶやく。
「僕という人格が果たしてプログラミングされたものであるならば、きっと僕は高性能なマシーンだ。こんな僕が生きていいのかわからなくなる時がある。僕は生きているのか。そういったこともわからない。サイボーグ。機械人形。人形。僕は誰だ?
何を為さなければいけない? 求むものは、平和か? それとも秩序か? はたまた均衡か? そのどれもがサイボーグの自分には分からない。理解不能。言語としては分かる。理解ができる。しかし人のつながりについて考察する気もない。何も楽しくない。スチュアート、聞こえるか?」
「聞かなきゃダメ? お前は俺を殺すために軍人になったんだろう? それなのに、犯罪に手を染めることでしか生きられない、無垢な子供を殺している。殺しているんだよ。殺す。その意味が分かるか? 終わらせているんだ。終結させているんだ。何もかもの終わりを突き付ける行為だ。お前はそれを理解しているのか。いいや、できていない。世界は優しくないぜ。そして、この俺も優しくはない。話し相手としては、いささか不条理な存在だ。それでも俺と話すのか?」
「お前は僕のことを唯一、知っている。『理解』しているんじゃないかって。そう思ってた。でも違うみたいだ」そしてアレックは黙った。マシンガンがとどろいている。ここは戦地だ。テロリズムが横行している。屈している場合ではない。我々はそれらを弾圧する。正義の名のもとに。しかし、その正義が時折、ひずむ。どこにもない。僕は誰だ? アレックだ。サイボーグとして存在している。軍人だ。世界を救うために、ミネルヴァ・シティのドラゴン、スチュアートを滅ぼさなければならない。
そんなことはたぶん、きっと、プログラミングされるより前からわかってた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます