episode7 awakens

 アレックが軍人として正式に鍛錬することが決まってから、ひと月以上が経過した。先輩の言うことは絶対で、上官の言うことは絶対で、それは確実な命令という名の所業だった。「踊れ」と言われたら、体を動かして、精一杯おどけるつもりで踊った。「土下座しろ」と言われたら、誠心誠意土下座した。彼らは心のこもっていない土下座を見破る。アレックには心がなかった。彼は機械的に土下座をする。上司の言うことも、機械的に応対し、それなりの成果を上げる。それが気に食わない者が大勢いた。「殺したい人間」のランキングをつける。彼らには「殺す」が分からない。エンド・ペヴェンシーの口腔に、手榴弾を突っ込み、屋敷を吹き飛ばしたアレックにはその意味が分かる。軍人として甘えていると言われる。制裁を受ける。殴られる。裸にされる。小便を飲むように強要される。全てを我慢し受け入れる。それは、スチュアートを退治するためだ。エンド・ペヴェンシーの引き起こした弊害をただすのは自分の務めだと思う。アレックはそう思う。でも、それだけしか考えられないアレックに何ができようか。彼の正義とは? 彼の信義とは?

 わからない。

 彼には戦闘能力でしか自分を見出せない。サイボーグであることを明かしてはいけない。しかし、明かさずとも人間の度合いの中で力をつけていくサイボーグの心根にある者は孤独だった。愛されたかった。笑いあえる友が欲しかった。時折、スチュアートはミネルヴァ・シティから話しかけてくる。

「軍人になったそうじゃないか。おめでとう」

「ありがとう。これでやっと君と同じ土俵に立てた気分だ」

「土俵ねぇ。何か勘違いしているようだから言っておくが、軍人になったから、何だ?」

「正義を施行できる」

「ナショナリズムか? それは正義なのか? ヒューマニズムか? それは正義なのか?」

「どうして……。どうしてそんなことを言うんだ?」

「お前がサイボーグのその機械の頭で考えていることがあまりにも甘ったれているからさ。軍人? 大いに結構だ。さぞつらい思いもしていることだろう? だから、何だ? 私はミネルヴァ・シティを牛耳っている。そしてお前は私を殺すとかのたまいながら、結局は何かに所属することしか選べなかった。私は孤高。お前は孤独。ピッタリな表現だろう?」

「……」

「誰もお前のことなんか認めやしない。サイボーグであることをいっそ明かしてしまえばいい。エンド・ペヴェンシーの財産をすべて引き継げばいい。あのアルフレッドはたいそうお前のことを甘やかしていたし、可愛がっていた。時には厳しかったがね。あの執事はいまだ健在だ。会いに行くことをお勧めしよう。何かが変わるさ。まあ」と言って、間を楽しむように、スチュアートは、ドラゴンらしく首をひねる。

「変わる気があるのならばだけどね」

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