episode6 fantasy

 荒廃したミネルヴァ・シティで、孤児は飢えていた。ストリート・チルドレンとして生きることを余儀なくされたのは、両親を、保護者を失い、金がなくなり、知恵を失い、生気を失い、正義を追求しているうちに、自分を見失ったからだ。

 スチュアートは愉悦する。不幸な子供を見ていると、食べたくなる。喰らいたくなる。そして自分を不幸だと思っている子供は実にうまい味がする。だから、食べる。むさぼり喰らう。美味。

 美味。

 この残酷な美しい世界、なんてきれいごとをほざけるのは、ストリート・チルドレンの寄り集まって暖を取り眠る姿が、この上なく美しいからだ。見るものを無残にしたくなるこの衝動をスチュアートは抑えられない。

 残酷。

 残酷?

 いいや、違う。正当。正直。もっと言えば素直。素直はきっと正義に直結する。何も正義にこだわっているわけではない。しかし、スチュアートの奥底にあるのは、葛藤と善と悪と、正義だった。そんなことはどうだっていい。彼は、ドラゴンはそう言う。有翼竜の言うことは虚言だ。嘘を突いているとは言わない。でもどこかでそれは真実ではない。正しくあれ。エンド・ペヴェンシーは口癖のように自分に言っていた。それを聞くとドラゴンは、翼をはためかせる。やまかましい、と怒鳴られる。しかし、エンド・ペヴェンシーが本気で怒る前に、ドラゴンはその翼を使って、どこかへと羽ばたいていってしまう。青くて痛くて脆い。それはエンド・ペヴェンシーの切なる感情だった。ドラゴンは人と人とのつながりを信じた。なぜか?

 彼がドラゴンだったからだ。

 戦争。

 引き起こそうと企んでいることを、大総統は知っている。この前、会話をした。というよりかは、念話をした。彼はすべてを疑ったうえで、ドラゴンと話すことを拒まなかった。自己矛盾という言葉がある。彼のための言葉だよ。ねえ、大総統?

 腐敗した政治家の温床。寒さと飢えを感じる孤児が、芸術家を志す。そんなしおれていて、バカげた世界。ドラゴンは、終わらせたかった。殺人という行為にもし、意味があるのならば、スチュアートはそれをためらうだろう。何が言いたい? 

 ――何が言いたい?

 大総統は言った。統括者として、聞かれ、スチュアートは支配者として答えた。

「殺人に意味なんてない。結果があるだけだ」

 その言葉に重みをもたせたかったのはきっとスチュアート、ないしはドラゴンが現実を生きる陽炎だからだろう。

 今日も孤児は盗みを働き、知恵を使う大人にいいように扱われ、安月給を大金だと思う。身体をささげる子供だっている。結構、儲かるらしい。スチュアートはドラゴンだ。性欲なんてわかない。興奮はする。肉体美もわかる。しかし肉欲はない。

 きっとそれは世界中の誰よりもきっと、何かの救いとなるイマジネーションなのだろう。難しいことはわからない。でも、そう思う。

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