episode5 notebook

 アレックは軍隊に入隊するために、軍事試験を受けることにした。

 長い旅をしたが、無事、軍事試験をするための都市に着くことができた。

「次」と言われた。

「はい」と威勢よく返事をした。

「身長、体重、年齢、名前」と言われた。

「165センチ、52キロ、16歳、アレック・ペヴェンシー」と答えた。

「服を脱ぎたまえ」と言われた。

 応じて、服を脱いだ。コツは恥ずかしがらないことと、手際よく脱ぐことだとインターネットに書いてあったから、そのマニュアルに従ってやった。全て脱いだ。

 観察される。

 吟味される。

 頷かれる。

「よし」とあごで指示される。

「次」と言っている。

 合格だ。

 サイボーグであることはばれなかったようだ。決してサイボーグであることはばれてはいけない。もしばれたら、軍人になるどころか、分解されたり人体実験をされて生涯を終えることになる。そんなのはごめんだ。

 瞳の色が一瞬赤く、ぼんやりと光る。やばい、と思う。エンド・ペヴェンシーへの怒り、あるいはアレック・ペヴェンシーを偽らなければいけない苦悩。どちらだろうか。きっとどちらもだろう。生易しくない現状を、アレックは生易しく考えている。生きられる、と思っている。サイボーグなのに。サイボーグが生きている? ばかばかしい。アレックは平気だ。しかし、アレックにはわからない。自分が生物だと思っているうちは、わからない。何が? 自分が生き死にを超越している存在であることについてだ。

 軍人。軍人? 軍人だ。戦う存在。何のために。誰のために。軍。

 軍。

 アレックにはわからない。能天気だと揶揄されたとしても、誰かは彼を心のどこかで称えるだろう。いつの日か、その時が来ることを願って、アレックは前に進まなければいけない。この易しくない地球で。それがさだめだとしても。

 ――僕はずるい。

 確かにその通りだ。しかし、アレックにはほかにどんな選択肢があっただろう?

 スチュアート。

 君だけが僕を生かす。君だけが僕の宿敵であってくれる。君だけが僕のつながりなんだ。アレックは泣く。一日の終わりに、宿で枕を濡らす彼は、一軍人として、軍隊に入隊した。

 彼の人生は、エンド・ペヴェンシーの人生と比較して、実に操作されていた。しかし、それの何が違うというのだろう? 自由? 大儀? 友愛? 博愛? 誠実?

 ばかばかしい。

 強者こそ、戦闘能力こそ、世界を揺るがす真実だ。

 アレック、君は間違ってなんかいない。

 ――強くあれ。

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