episode4 dynamite
アレックは雪原を歩いていた。向こうに一本の裸の大木があった。今日はそこで休もう。アレックはサイボーグだ。寒さを感じはしても、凍死をすることはない。どこで寝たって、風邪をひかなければ熱も出ない。しかしアレックは心を信じた。自分にも心があることを信じて疑わなかった。なぜか。
孤独だったから。
アレックは寂しかったのかもしれない。分からない。サイボーグが孤独を感じるなんてふざけた美談だ。しかし、アレックは、寂しかったのかもしれない。何かを、誰かを求めていたのかもしれない。でも、アレックにはわからない。ただ臓腑がざわつくということ、頭がもやつくということ。それだけが分かる。
完全を求めたエンド・ペヴェンシーの発明がえてして不完全な理由が極まれている。そう考えるアレックの脳髄は人工的な機械だ。
大木に寄りかかる。雪が降っている。寒いのが分かる。掌で雪の結晶がとける。雲がかかっているけれど、その隙間で星がきらめき、流星群がアレックの「心」をぶちのめす。「残酷なことを言わないでほしい」というセリフを思い出す。スチュアートに言ったことのある言葉だ。どうしてこんなことを言ったのか、アレックは思い出せない。世界は少なくとも、今この時だけはアレックを甘やかしてくれるような気がした。この旅は長いものになるだろう。雪原は広い。どこまでいけばいいのか、わからない。
「僕は独りだ」とつぶやく。雪原と雲間から見える流星群。裸の大木。それに寄りかかるアレック。その眺めは壮麗で、どこまでも美しかった。
「行かなくちゃ」
どこへ?
「逃げなくちゃ」
何から?
アレックにとって時間とは世界の速度だった。速度に終わりはあるのだろうか。終わってしまえば、こんなに楽なことはないのに。スチュアート。ねえ、君だってそう思うから、そう感じ取ったから、エンド・ペヴェンシーから逃げ出したんだろう? ミネルヴァ・シティなんていう、ちんけな都市を滅ぼしたんだろう?
答えはない。
答えはない。
――答えはない。
アレックは上を向いた。それでも涙がほほを伝った。どうしようもないくらいに悲しかった。エンド・ペヴェンシーのいない世界で、世界はエンド・ペヴェンシーの遺志を継いでいた。逃れられない現実が、アレックを苦しめた。助けてよ。
――助けてよ、スチュアート。
それは罪悪の根源。
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