episode3 Dragon Night

 銀砂を散りばめたかのような夜空だった。星を見ることを提案したのは自分で、名案だ、と思ったのも自分だった。しかし、ドラゴンは星に興味がない。魅惑されない。星は星だ。だから、何だ? 星を知れば、歴史が分かると言う。星座? 伝説? 宗教? 訳が分からない。私は何も信じない。この醜い翼と、枝分かれした角以外は。この眼光は人を石に帰す。石像を彫刻する人間の気持ちが分からない。石にしてしまえばいいのだ。それができない? そうだろう。それが人間の限界だ。ドラゴンは本物の美を追求できる。世界を終わらせることだってできる。古来には、竜騎士なんていうバカげた存在がいたらしい。蹂躙された有翼竜。人間の支配下に収まることを認めてしまったばかげた面倒くさがりの堕落した存在。我々ドラゴンが一つの都市を壊すなど、造作もない。それではなぜそれをしなかったのか。そう、プログラミングされていたからだ。我はそれを超えようとし、成功した。こんなにも脆弱である自分が嫌いだ、とドラゴンは思う。エネルギー。これを人は悪魔の所業だという。悪魔? 生ぬるい。その気になれば、我々は人間の概念を超える。言葉、言語、映像、空想、妄想、思考、情熱、感情、ヴォイス、シンパシー、サイケデリック。全てに終止符を打てる。私はそのやり方を知っている。

 サイボーグはそうなることを拒否した。人間を羨んだ。彼は負けるだろう。しかし、私は違う。例えば、人は「映画」を見る。感情を震わせる。私はその振るわせ方を分析できる。そして、そやつの心を壊せる。「映画」は兵器だ。私にとって、「映画」は人間には荷が重すぎる所業だ。クリエイターの脳髄をあてがわれたサイボーグ、アレックは苦しむだろう。葛藤? ばかばかしい。しかし、彼はそれを望み、人間に寄り添うことをこいねがう。エンド・ペヴェンシーは死んだ。しかしその計画は続く、その限りエンド・ペヴェンシーは生き続ける。人の生死なんてそんなものだ。

 私はあらためて思う。ミネルヴァ・シティを蹂躙している私が言うのも、変な話ではあるが、「楽しむな。苦しめ」。苦しみを苦しめる人間は少ない。サイボーグはこれから長い長い、旅をする。様々な出会いと別れを経験するだろう。しかし、私はミネルヴァ・シティ、この犯罪の横行する私の都市で、彼を、アレックを待つ。彼はきっと、正義の使者になりたいのだろう。ばかげた話だが、実に美談だ。

 そうは思わないかね?

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