第110話◇番外編◇ある雪の洗礼・2
「へ……!」
「久しぶりだなぁ。ギルバード」
そこには自分と別れた時よりも背が伸びて男前になったルイがいた。
「どうしてここが? ジェー……陛下は?」
「おまえの行き先など初めから分かっていた。報告を受けていたからな。彼女は王宮だ。この国の雪祭りに客人として招かれている」
「しばらく会わないうちに逞しくなりましたね?」
「成長盛りだからね。そちらの女性は?」
「この国に来て世話になっている女性です」
ルイがギルバードの隣に並び立ったハナリアに目を留めた。ハナリアは自分から手を差し出した。
「始めまして。ハナリアです。ギルバードとは親しくさせてもらっています」
「私はオニキスだ。ギルバードとは従兄弟なんだ」
ルイの言葉を聞いてリアは瞳を輝かせた。
「良かった。ギル。あなたにも親戚がいたのね? 安心した」
リアがなぜか瞳を潤ませる。
「リア?」
「だってあなた、前に暮らしていた国の話なんて一つもしなかったし、ジンもそのことには触れてくれるな。って、言ってたから……、よっぽど故郷で嫌な思いをしたのか、親戚とは疎遠なのかと思って……」
あなたの元へ国許から手紙とか来たのを見たことないし。と、リアは安堵したように言う。ギルバードが国外追放となっていることを知っているのは、この国に来るのを誘った商人のジンだけだ。彼はリアにギルバードに国許のことを聞かないようにと言っていたことから、彼にも気遣わせていたことを知った。
「ギルバード。私がここに来たのは、ガルムからおまえ宛の手紙を頼まれたからだ」
ルイは胸元から一通の手紙を取り出した。その場で手紙を開封すると懐かしい義兄の字で「元気でやっているか?」と、言う言葉が書かれていた。
「ガルムもそのうち、ここに顔を出すと言っていた。グレイは一生、監獄のような修道院生活を送っているからここには来れないが、奴からはこれを預かってきた。修道院でとれた蜂蜜だそうだ。生活が落ち着いたら手紙でも書いてやれ」
「はい。そうします」
レイは左右のポケットから二つのガラス瓶を取り出し、ギルバードに差し出した。
「ジェーン陛下も心配していた。おまえは元気にやっているかと」
「彼女には宜しくお伝え下さい」
「ああ。おまえの元気な姿も見れたし、じゃあ、行くわ」
レイが踵を返しかけてリアはそんな。と、声を上げた。
「ええ。もう帰っちゃうんですか? オニキスさん。もし良かったらうちにいらっしゃいませんか? ギルバードと積もる話もあるでしょう?」
「リア。彼は忙しいんだ」
ルイにはやる事があるから引き止めては行けないと言うギルバードに、リアが不服そうな目を向ける。
「ハナリアさん。また来ます。今度はもう一人女性を連れて」
「その女性はオニキスさんの彼女ですか?」
リアの言葉に、ギルバードはおいおいと止めようとして、ルイは可笑しそうに笑った。
「そのようなものです。ギルバードのことを宜しくお願い致します」
「楽しみにしてます。今度は必ず立ち寄ってくださいね。待っています」
リアは笑顔で手を振った。ルイが歩き出してギルバードが歩み寄る。
「有難うございました……」
「いい女性と出会ったじゃないか。元気でな。また来る」
ルイは、ポンポンと肩を叩き立ち去った。彼を見送った後でリアが不思議そうに言う。
「あのオニキスさんって本当にあなたの従兄弟なの? なんだか主従みたいな感じがしたわ」
「彼は宮廷務めをしているからね。言葉遣いが堅苦しいのさ」
「なあんだ。そうなの。今度来たらギルのこといっぱい聞いちゃおう」
「それは勘弁してくれ」
「なんで?」
「恥かしいからさ。さ、きみのお母さんが首を長くして待っているんじゃないか?」
「ああ。そうだった。早く行きましょう」
リアがギルバードの手を引く。それがずっと続くのもいいなと思うギルバードだった。
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