第107話◇番外編◇物事の裏側で


「陛下はあなたさまのご子息であるギルバードさまを危険視されていたに違いありません。将来、反対勢力となりうるものかどうか探っておられたように見受けられます」

「あの子は聡い子だからね。先代王にも父親をそなただと偽って育ててきたギルバードを、私が気にかけている態度で何となく察したのかもしれないね」

「ヘンリーさま。今こそ立ち上がるべきでは?」


 侯爵の言葉にヘンリーは眉を顰めた。


「お待ちなさい。侯爵。焦りは禁物です」

「これは先代王がお亡くなりになった時から密かに進めてきた計画ではありませんか。アマンダさまの悲願でもあります。それを止めるというのですか?」

「それは……」

「おふたりは何の話をされているのですか?」

「本来ならそなたに何も知らせずに我々の計画を実行する予定だった」


 侯爵が珍しくも感情を露にしていた。母の名前を出され、しかも母の悲願だったという計画。それはルイが危惧していた事だ。どういうことなのかと聞こうとしたギルバードの質問に答えたのは実父の方だった。

 言葉に怒気が交じっているかのように感じたのだろう。教皇はギルバードを宥めるように頬を撫でる。


「そなたがジェーン嬢と結ばれていてくれれば何の問題もなかったのです。せっかく兄を説得して結ばれた縁だったと言うのに。ルイに横槍を入れられてしまった」


 あの子は気が付いたのだろうね。私たちの計画に。と、ヘンリーは深いため息を漏らした。


「あの子は病弱だったし、医者の見立てでは成人まで持たないだろうとの見解だったから、我々は彼に手を出すことなく様子を見守っていました。そして彼の死後、ジェーン嬢を王にし、その王配としてそなたが婚姻すれば何の問題もなかったはずなのです。しかし、まんまとルイには騙されました。さすが兄の子です」


 教皇の言葉でギルバードは、教皇は権力を欲していることを察した。聖職者の立場にありながら、この国を我が物にする為に実子のギルバードさえ、その駒に使うことに躊躇いがないらしかった。

 それでも一応の確認の為にわざわざ聞いてみる。


「父上さま。それではまるで陛下が王の地位についているのに不満を持っているような言い方に聞こえてしまいます」

「無論だよ」

「なぜですか? 王妃が低位貴族の娘だからですか?」

「彼女の身分だけが問題であればまだ救いがあった。王の歪んだ愛が弊害をもたらしたのだよ。その結果、彼が産まれた。王の死に際の告解により彼の罪が明らかになった」


 ヘンリーは固い顔をして告げた。ルイは罪の子であると。


「どういうことですか? 陛下が罪の子とは? もしかして陛下が前世の記憶持ちだったりするのでしょうか?」

「それはどういうことですか? ギルバード?」

「あ、いえ。違ったのですか?」


 思いがけない相手の反応に、ギルバードは自分の失態を悟った。自分が聞きたかったのはそこではない。なぜ、ルイのことを罪の子と言い出したのか、その原因を探ろうとしたのに間違ってしまったようだ。


「父上さまは、陛下が罪の子だとおっしゃられたので、てっきり前世の記憶持ちなのかと思っただけですが」

「そうか。他にも余罪があったのかと……。驚きました」

「誤解を招く発言をしました。すみません」


 慌てて取り繕うように言えば、そこは気にしていなかったらしい。教皇は頭の中で計画していることを進めることに必死のようだ。


「私の説明が不足していました。ルイは罪の子ですが、彼自身が罪を犯したわけではないのですよ。先代王の罪とでも申しておきましょうか」

「先代王の罪?」

「あの子は生まれてきてはいけない存在でした」


 その一言を重く告げた教皇は言った。先代の王は実妹と関係があったのだと。死の間際に兄王から告解を受けたのだと教皇は告白した。


「本当の話ですか?」

「あなたは私を疑うのですか? ギルバード。父は悲しいですよ」

「あ。いえ、聖職者が嘘をいうことは思いませんが……。もし、それが本当ならルイ陛下とパール公爵令嬢は異父姉弟ということになってしまいます」

「あなたが信じられないのも無理はありません。私も今だに信じられない思いです。しかし、これはチャンスだと言えない事もない」

「父上さま」

「ルイは不義の子。彼に王位を任せておくことは出来ません。代わりにあなたが立つのです。この国の王になりなさい。ギルバード」


 そう告げた教皇の瞳はどこか普通でないものを感じた。

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