第103話・陛下は何の咎もない私を貶めようと言うのですか?
「……陛下は何の咎もない私を貶めようと言うのですか?」
「その言葉、そっくりそのままお返し致しますわ」
ヘンリー教皇はグレイとは無関係だと言い放ったが、それを見逃す気はなかった。
「あなたは謀反を企み、悪戯に国民を煽った。その所業は聖職者としても相応しいものとは到底思えません」
「先代王はその地位につくのに相応しいお方ではなかったのです。禁忌とされる御子だった。私はその血筋を正そうとしただけです」
ヘンリーはルイを禁忌の子だと言い切った。侮辱である。わたしは苛立った。
「あなたの言葉は耳汚しですね。先代陛下を貶める発言は重大ですよ。それにその発言はわたくしと亡き陛下が同母の姉弟だと言っているようにしか聞こえませんが?」
ヘンリーはルイが先々代の王と、その実妹だったわたしの母が関係を結んで生まれた子だとして、禁忌の存在として告発し挙兵したのだ。鬼籍に入っている二人を利用したような発言をこの場で許す者はいなかった。
「私は嘘は言っておりません。神に誓ってもいい」
神さえもいい訳に使ってしまうような男に呆れた。実父が宰相や侍従長と脇に控えていたので、一応の確認の為に話を振る。父としては妻を貶められて良い気がするはずはない。
「こうこのお方は言っておりますが、パール公爵、それについてはどう思われますか?」
「あり得ませんね。我が妻は貞淑な女性です。もし、そのようなことがあれば私自らこの手で彼女の命を絶ち、先々代の王の命もこの世にはなかったことでしょう。これ以上、見苦しい発言は聞きたくもありません」
父は腰に下げた剣の柄に手をかけようとしていた。それを目視で止めさせる。こんな男、父の手で葬らせることもない。
「私は先々代の陛下の死の間際の告解で、確かにこの耳で聞いたのです」
「まだ死者を愚弄する気ですか? お黙りなさい」
ヘンリーは必死に訴えてきた。その姿に見苦しいものを感じて制すると、ヘンリーは口惜しそうに唇を噛み締める。グレイの証人としての役目は終わったので退出させた後、わたしは彼をねめつけた。
「仮に……、先々代の陛下が告解したのだとしましょう。しかし、その内容を他言しない事は前提とされているのでは?」
「しかし、内容が内容だけにこのままではいけないと……」
「そう考えて自分の子であるギルバードを王座にと? 浅はかでしたね」
ヘンリーが睨み付けてくるが、わたしは気にしなかった。
「ギルバードも禁忌の子。ゆくゆくこのまま生かしておけば、王家を転覆させかねないと先々代の陛下が何の手立てもなく見逃してきたとでも?」
「……?」
「先々代の陛下は、あなたの野心にお気づきでした。あなた方の所業で命を喪うと気が付いてルイ陛下に遺書を残されていたのですよ」
「嘘だ。兄上はわたしのこの手で……!」
「この者を捕らえなさい。ギルバード」
ヘンリーのその発言が欲しかったわたしは彼の名を呼んだ。それまで大人しく傍観者に徹していた彼に命じた。ギルバードは速やかに動いた。ヘンリーは驚きを隠さなかった。自分の息子によって後ろ手に縛られる。
「どうして? 父親を罪人にする気か?」
「あなたさまは間違えたのです」
「ギルバード」
この逆転劇に彼は理解が追いついていないようだ。これは前もってルイや先々代の王がそうなるように仕向けた結果なのだ。わたしはそのふたりの王が障害を取り除いた後を、平定して歩いて行かなくてはならないのだろう。
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