第100話・ルイ斬られる
「ワーッ」
城郭に蟻のように大勢の敵兵たちが群がってきた。お互い肩を組み、それを踏み台にして城郭の中へ侵入しようと試みる。それを城郭の上からガルムに従う兵達が一斉に矢を放ち振り落とそうとするが、何人かがうまくそれて城郭に登ったところで待機していた兵が切りつける。
「気を抜くなっ。一人たりとも王都には入れるな」
「おおーっ」
国王ルイの声に味方の兵が相手の兵と切り結びながら、賛同の声をあげる。王自ら戦いの場に身を置いて皆を鼓舞する。人数の上では相手の兵には及ばないが、少年王の気力はそれに負けてはいない。目の前の兵を次々となぎ払う彼には迷いがなかった。
ルイに稽古をつけてきたのはガルムだ。彼は王都に立ち寄るガルムに密かに剣の稽古を頼んできた。頼まれた当初は、「そのような荒事は我々兵士にお任せ下さい。あなたはやんごとなき身分のお方。自ら剣を振るう事はありますまい」と言って、自分達に守られていれば良いのですよ。と、言ったが彼は引き下がらなかった。
その時は陛下というのは守られる側で特に武術を磨く必要はないのにと思っていた。しかし、世の中どう転がるか分かったものじゃない。
陛下はガルムが何度断っても、いつか自分にとって必要になると譲らなかった。そしてジェーンの為にも強くなりたいのだと言っていた。
陛下の従姉姫を思う心にほだされた形で教えることになり、陛下に教え始めて戦慄した。彼は飲み込みが早く才覚があった。しかも、ガルムとの打ち合いで夢中になってくると、どこで覚えてきたのか不思議な剣技を披露したこともある。その技は十五年では到底習得できなそうな熟練技にも見えた。たかが十五歳の少年が到達するにはガルムが教えた年月では無理なのは確かだ。
ガルムが守ろうとしている少年王は、十五歳にしては腹が据わってみえた。彼の背を守りながら思う。自分が十五のときは入隊してまだ二年目で一日も早く稽古から解放されることを望んでいたというのに、陛下には今の現状から逃れることすら許されないのだ。
(せめて陛下の身はなんとしてでもお守りする。自分の命に代えても)
ここで自分達が負けることがあれば、教皇に屈してしまうことになる。そうなれば陛下にありもしない罪をでっちあげて断罪の上、意気揚々と教皇が王都に乗り込んでくるのは目に見えていた。
陛下が命をかけてでも守りたいもの。最悪な未来を変える為に自分達はここにいる。
必死に敵兵をなぎ払っていたガルムは、目の前でパール公爵が敵兵に切りかかられたのを見て、助太刀をすべく陛下の後ろを離れた。
その時、陛下の身に迫った兵がいた。ルイは丁度、目の前の敵兵と切り結んでいた時だったので、背後から迫る敵兵にふいを付かれた形となり対処が遅れた。
「陛下―っ」
ガルムの目の前でルイが切られる。そしてバランスを崩し城郭から落ちて行く姿を見た。すぐにでも駆けつけたい所を敵兵が束となって襲ってきた。
「邪魔だ。退け。退けー!」
ルイを切った敵兵は、自分が斬り付けた相手の素性に気が付いてないようだった。ルイは名乗りを上げずに一人の兵として、皆と戦いに加わっていたからだ。それが幸いなのかどうか分からなかったが、ガルムは気が急いてならなかった。
「陛下ぁああああああっ」
その声は取り囲む敵兵の前に虚しくもかき消された。
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