第97話・教皇の企み
「それではこのことは教皇の専横では? ルシアス教ではそのようなこと認めていませんよね?」
「もちろんです。ジェーンさま。わたくし達の力が及ばすこのようなことを引き起こしてしまったことお詫びいたします」
「頭をお上げ下さい。枢機卿さま。わたしへの謝罪は結構で……」
そう言いながらわたしは、頭を下げた枢機卿さまの袖口から見えた、手首に食い込むようにして付いた痣に気が付いた。
「これは……?」
「教皇さまを諌めようとしたマダー枢機卿や、その志を共にされた方々は後ろ手に縛られて、懺悔室と呼ばれる拷問部屋に入れられていたのですよ」
「……!」
そのことは皆、初耳だったようだ。宰相に侍従長、そしてルイでさえ瞠目していた。俯くマダー枢機卿に代わって、彼を連れてきたガルムが言った。
「私は以前よりマダー枢機卿とは交流を持っておりました。枢機卿から何やら教皇さまが良からぬことを企んでいるようだと知らされていたのです。まだ疑念だけでは下手に陛下にお知らせして、心痛をおかけするのも申し訳ないと思い、教皇さまの周囲を伺っていたところ、教会に忍ばせた者からマダー枢機卿が捕らわれていると報告がありました」
教皇がシーグリーン侯爵の庇護のもと教会を抜け出した隙に、ガルムは彼らを助けだしたのだそうだ。
「教皇さまは変わられてしまいました。以前のような、皆に等しく優しいお方ではなくなってしまわれたのです」
誠に残念です。と、枢機卿は悲しそうに言った。実に酷い話だ。自らの仲間にもこのような仕打ちをするだなんて。その行動が常識を逸脱してることに、あの教皇は気がついているだろうか? 我が子を王位につける為にここまでする? 教皇さまはここまで強欲だったのか?
ふと、ゲームの中のジェーンと、ギルバードのバッドエンドの処刑シーンを思い出した。確かそこで彼は、処刑前のギルバードに何か言っていた。
『そなたの顔など二度と顔も見たくない。さっさと逝ね』
と、いうセリフだったと思う。ずいぶんときつい物言いで、ギルバードそのものを嫌悪してるような言い方だった。刑が執行された後にポツリと彼は呟く。
『これが我が子だと露見する前に、死んでくれて良かった』と。
その声は非常に小さなもので、処刑人に捕縛されて次の死刑執行を待つジェーンにしか聞こえていなかった。教皇はぞっとするほどの猫なで声でジェーンを促がす。
『ギルバードは天に召されました。次はあなたの番ですよ』と。
乙女ゲームとはいっても後味の悪い終わり方だった。でもあれは所詮ゲームの中でのこと、現実では教皇はギルバードを溺愛しているようだ。その愛し方はやや、曲がった方向に走っているが。
息子の存在を消し去ることしか考えていなかった教皇よりは、はるかに良いのかもしれないけれど……と、思ったところであることが思い浮かんだ。
「もしかして教皇さまはこの世の中を掌握しようと、ギルバードさえも手駒にしようとしている?」
わたしの言葉に、マダー枢機卿がハッと顔をあげた。
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