第96話・父とは袂を分かちました
「陛下。こちらのお方をお連れしました」
「ガルムさま。どうして?」
ガムルは背後にお客様を連れていた。ルイの命により連れてきたような態度で、意外な彼の登場に驚く。ギルバードの義兄が何故ここに? そしてルイに従っているということは? 目を丸くしているとガルムが言った。
「父とは袂を分かちました。私は陛下に尽くす所存です」
「ガルムどのは、いち早く謀反に気がつき知らせを送ってくれました。そして信頼
できる者を引き連れてこちらに駆けつけてくれたのですよ」
ルイたちの態度は彼に対して何も変わらなかった。アズライトが補足説明をしてくれたことでルイ達が信用している様子が伺えた。この状況でも彼の人となりは知っている。父親は王家に歯を剥いてきたけれど、ガルムは真っ直ぐな人だ。父親のやり方には納得がいかなかったと見える。
その彼は一人の中年の聖職者を連れていた。ルイがわたし達に説明するように言う。
「教皇の言葉には思うところがあったからね。こちらのお方に来て頂いたんだ」
中年の聖職者は、一人の栗毛に黒い瞳の冴えない容貌ながら、人当たりの良い笑みを浮かべていた。
「こちらのお方は?」
宰相が伺い、侍従長が訝るように相手を見る。ふたりとも初対面のようだ。
「ふたりとも初めてだったかな?マダー枢機卿さまだ。今の教皇さまと教皇の座を競われたお方だよ」
その言葉にマダー枢機卿は柔らかくほほ笑んだ。
「皆さまのお力になりたいと思いこちらに伺いました。以後、末永くお見知りおき下さると幸いです」
マダー枢機卿は深々と頭を下げた。
「先ほどのジェーンさまのお言葉、身に沁みました。お怒りはごもっともでございます。お恥ずかしい限りですが、わたくし達も一枚板とは言いがたく……」
枢機卿は言いよどむ。それでも聞きだした話では、今回の事で教会内の勢力が二分していると言うことだった。教皇の行動を容認している者達は大概が古参の者が多く、彼らは先代王が前王妃を追い出して離縁し、低位貴族の娘を王妃に迎えた行為を快く思わなかった。そのような行動を取った王は非道だと、表立ってはなかったが影で中傷していた時もあったらしい。
それと言うのも宮廷から追い出された前王妃が原因で、彼女は「娘が王族籍を外された。これというのも王が自分を追い出して新たに迎えた女のせいだ」と、泣き付いたことで、話を鵜呑みにした教皇らが同情した為である。
その当時からマダー枢機卿は、教皇に双方の意見を聞かずして、片側だけの意見を聞いて判断するのは危険では。と、諌めたが聞き入れてもらえなかったと言う。
今回の事も、教皇容認派達が教皇に煽られる形で賛同し認めてしまった。教皇はそれを追い風に、自分の子を王に即位する旨を勝手に決めてしまったのだそうだ。
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