第92話・女官の噂話
それも巧妙に陛下や宰相にばれないように、彼らの目のあるところではしないが、陛下の訪れの無い時には、食事は運ばれてこないし、着替えもさせてくれない。そのせいで嫌でも一人で身の回りのことをすることを覚えてしまった。でもこうしてジェーンが訊ねてくる日は女官達が嫌々ながら入浴をさせ、着替えもさせてくれるし、食事も出る。
彼女達にとっては、公爵令嬢に見咎められてそこから陛下や宰相に告げ口でもされたら堪らないと思っていたのだろう。姑息な女官たちだったがそれでもルイにしてみれば、ジェーンの来る日は、まともな食事にありつける日で食いだめの日になった。
普段、食事にありつけない日は菜園に入って、そこで実った果実を食べている。それでお腹が膨れるわけでもなく、空腹を抱えて寝るのが日常化していたのだ。
そんな自分をジェーンに知られるのは惨めに思われて嫌だった。母が嫌われていてそのことで、自分もとばっちりを受けているだ。なんて父王にも言えなかったし、気難しい顔をして殿下はゆくゆくこの国の王となられるお方なのですから、いつまでもそのようにパール公爵令嬢に付き纏っていてはいけませんよ。と、忠告という名の小言を言ってくる宰相には尚更言えなかった。
頼みとする母は部屋に引きこもり、自分の子供のことなど気にかけるほど気持ちに余裕がないようだ。その母を心配して宰相や、辺境伯らがご機嫌伺いに部屋を訪れているのを、何も知らない女官たちが面白おかしくはやし立てる。
その頃、母は流産していたのだ。過度なストレスと周囲の悪意にさらされて体が悲鳴をあげていたらしい。宰相達は母の状態を重く見て、陛下に王妃を静養に出してはどうかと勧めたが、王妃と宰相たちの仲を邪推してそれを前陛下は拒んだらしい。
結婚当初は、癇癪を起こしてばかりいたという前王妃と比べられて、割と好意的に迎え入れられていたはずの母は、自分を産んで数年が経った後、ある噂話が出てきた事で皆から疑われて、嫌われることになってしまった。
『王妃はお気に入りの臣下を閨に招いている』
王妃が流産したことから、その体を労わった父王の渡りが少なくなっていた時のことで、たまたま寝付かれずに医師を呼び処方してもらっている時に、その様子を見に来ていた宰相だけが一人深夜に王妃の部屋を訪れたと悪い方向に解釈され、宰相から話を聞いて見舞った侍従長も、王妃の体が悪いとお見舞いに訪れた辺境伯も怪しい仲なのだと噂された。
その噂で所詮低位貴族出身の王妃は、男に媚びるのが上手いなどと悪口を叩かれて、気落ちする王妃を見かねて、王妃付きの女官達はそんなことはないと突っぱねたこともあったが、王子付きの女官達はその噂を信じ込んでいた。
昼餐の場へ戻ろうとしていた時に、先ほどの女官達がまだ立ち止まって話をしている姿が目に入った。嫌な予感がした。女官達は手を繋いだ自分達を見て意味ありげに笑うと、聞こえよがしに再び会話を始めたのだ。
「殿下とジェーンさまの仲が宜しいこと」
「それは当然でしょう。あのおふたりは……」
それを耳にした途端、自分は気が遠くなりそうになった。それが本当ならショックだった。実の姉のように慕っている従姉が本当に自分の……?
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