第88話・ルイは罪の子


「おふたりは何の話をされているのですか?」

「本来ならそなたに何も知らせずに我々の計画を実行する予定だった」


 ギルバードの問いに答えたのはヘンリーで、彼はギルバードの頬を撫でながら言う。


「そなたがジェーン嬢と結ばれていてくれれば何の問題もなかったのです。せっかく兄を説得して結ばれた縁だったと言うのに。ルイに横槍を入れられてしまった」


 あの子は気が付いたのだろうね。私たちの計画に。と、ヘンリーは深いため息を漏らした。


「あの子は病弱だったし、医者の見立てでは成人まで持たないだろうとの見解だったから、我々は彼に手を出すことなく様子を見守っていました。そして彼の死後、ジェーン嬢を王にし、その王配としてそなたが婚姻すれば何の問題もなかったはずなのです。しかし、まんまとルイには騙されました。さすが兄の子です」

「父上さま。それではまるで陛下が王の地位についているのに不満を持っているような言い方に聞こえてしまいます」

「無論だよ」

「なぜですか? 王妃が低位貴族の娘だからですか?」

「彼女の身分だけが問題であればまだ救いがあった。王の歪んだ愛が弊害をもたらしたのだよ。その結果、彼が産まれた。王の死に際の告解により彼の罪が明らかになった」


 ヘンリーは固い顔をして告げた。ルイは罪の子であると。


「どういうことですか? 陛下が罪の子とは? もしかして陛下が前世の記憶持ちだったりするのでしょうか?」

「それはどういうことですか? ギルバード?」

「あ、いえ。違ったのですか?」


 ルイが前世の記憶持ちと聞いてヘンリーは説明を求めてきた。ヘンリーはルシアス教を説くなかで、人間は皆死んだら天国(パライソ)に昇ると言っていた。前世の記憶を持っているということは天国に逝けなかった者で、その者達は天国の門をくぐる前に前世の大罪を告解させられて、天国の住人に相応しくないと追われた者である。すなわち罪深き者なのだとも伝えてきた。


 それを教えとして受けてきたこの国の者達は、前世の記憶など持ち合わせているのは、大罪を犯した者だと信じている。ヘンリーがルイを罪の子だと言ったので、ギルバードは前世の記憶持ちなのかと疑っただけだ。そこにヘンリーが食らいついて来たので他に理由があったのかと驚いた。


「父上さまは、陛下が罪の子だとおっしゃられたので、てっきり前世の記憶持ちなのかと思っただけですが」

「そうか。他にも余罪があったのかと……。驚きました」

「誤解を招く発言をしました。すみません」


 そう言いながらもギルバードは、ルイのことを疑っている。彼には謎が多い。この世の中の流れを先読みすることにたけているような気もするし、ギルバードが到底、耳にしたようなこともないような言葉を呟くこともある。

 一応、ギルバードはこの国の親善大使として色々な国を訪れていることもあり、五か国語堪能なのだが、どの国の言葉を探ってもルイがたまにもらす言葉には聞き覚えがないものばかりだ。


 もしかしたらそれは、この世界ではなくどこか別の世界のものではないかと思う時がある。そうするとルイは前世の記憶を持っていることになりはしないかと、疑問に思っているのだ。ギルバードが考え事をしていると、ヘンリーは自分の言葉が足りませんでしたね。と、言い出した。


「私の説明が不足していました。ルイは罪の子ですが、彼自身が罪を犯したわけではないのですよ。先代王の罪とでも申しておきましょうか」

「先代王の罪?」

「あの子は生まれてきてはいけない存在でした」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る