第87話・教皇とシーグリーン侯爵の不穏な動き


「これのせいであなたにはいらぬ苦労をさせましたね。王家に叛意ありと思わせないようにエメラルドグリーン家に守られるようにして隠し続けてきた。そのあなたを王家のコウモリにしていたとは……。不甲斐ない父を許して下さい。ギルバード」

「どうしてそのことを父上さまが? それに王のコウモリになったのは自分の意思です。父上さま、そのように嘆かないで下さい」

「陛下はかなり前からギルバードさまがヘンリーさまのお子だと気がついておられたようでした。そこで先代のコウモリを誘導して、後任にギルバードさまが選ばれるように仕向けたのだと、グレイの調べで分かっております」


 ヘンリーは、ギルバードが国王のコウモリとなって使われていたことを良く思ってない様子で、その気持ちを煽るように侯爵が淡々と報告する。侯爵は教皇を前にしてるせいかギルバードのことを呼び捨てにしなかった。

 そこに他人行儀なものを感じ、彼とは血の繫がりのないことをひしひしと感じさせた。侯爵にとってギルバードは、お仕えしてきたお嬢さまが産んだ子で、敬愛する教皇さまの子である。侯爵にとってはあくまでもギルバードは、御主人さまからの預かり子でしかなかったのだと思った。


 その侯爵の態度に特別思うところはなかった。彼との関係を振り返ってみても、もとからこんな男だったと思うだけで、侯爵は自分に特別な情をかけることなく、接してきたのだと改めて認識しただけだった。


「陛下はあなたさまのご子息であるギルバードさまを危険視されていたに違いありません。将来、反対勢力となりうるものかどうか探っておられたように見受けられます」

「あの子は聡い子だからね。先代王にも父親をそなただと偽って育ててきたギルバードを、私が気にかけている態度で何となく察したのかもしれないね」

「ヘンリーさま。今こそ立ち上がるべきでは?」


 侯爵の言葉にヘンリーは眉を顰めた。


「お待ちなさい。侯爵。焦りは禁物です」

「これは先代王がお亡くなりになった時から密かに進めてきた計画ではありませんか。アマンダさまの悲願でもあります。それを止めるというのですか?」

「それは……」


 侯爵が珍しくも感情を露にしていた。母の名前を出され、しかも母の悲願だったという計画。そこにギルバードは不穏なものを感じた。

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