第85話・おまえは裏切らないよね?
「自業自得でしょう。でもイサベル王女は自国で嫁がれることになりそうですから、もう我が国とは係わりがなく生きていくことになるでしょうね」
「ギルバードは優しいんだね。余なら病死と称してうっかり殺してしまいそうだよ」
「陛下。冗談にしても過ぎますよ」
「許せ。イサベル王女に限るだけだ」
仕方ありませんね。と、ギルバードは相槌を打った。ジェーンが川に落ちたと聞いた時のルイは迅速だった。ジェーンの救出部隊をガルム達に命じると、パール公爵家の侍女らの活躍で捕らえた男達の証言などから罪状が明らかとなった王女を捕縛して、宮殿に連れ帰った。
王女は泣き喚いていたが、ルイと目が合うと怯えた様子をみせた。それまでルイに言い寄っていた彼女はルイの逆鱗に触れてから、彼の視線がよっぽど怖かったらしかった。強制国外退去処分となった彼女は、国許へ送り返される馬車に乗り込む時、「あれは他人を殺せる目だわ」と、震えあがっていたらしい。
ルイはイサベル王女の遊学に付き添っていた大使を宮殿に呼びつけ、直接抗議を行った。大使はルイから朝一番の呼び出しを受け、優しい少年王が激高する姿を初めて目にした。ルイは王女がジェーンの暗殺未遂に係わっていたことを告げ、強制国外退去を命じた。その日のうちに帰国しなければ、王女をこちらの国の法で裁く。もう二度と我が国の土を踏む事は許さぬ。と、脅せば、大使は慌ててその場を退出し、王女を連れて帰国の途についた。
王女の仕出かしたことは、すでにスランバ国の宰相のもとへ通達してある。あの国はルイの懐をあてにしていた。それを袖にされて慌てふためいている事だろう。ルイはスランバ国の王女にされたことを隠しておく事はさらさらないようなので、そのうち各国にイサベル王女の仕出かした事は知れ渡るに違いないとギルバートは思っている。
そうなれば他の国の王族に嫁ぐことも適わない王女は、臣下に降嫁するか、嫁ぎ先に恵まれなくて修道院行きになるか、最悪、密かに抹殺されてしまう可能性も高い。スランバ国はルイを大いにあてにしていたようなので、ルイを怒らせ二度と我が国の土を踏むなと追い返された不名誉な王女を、お帰りと温かく迎える事はないだろう。
王女の場合、同情する気にもならなかった。躾のなっていない王女を押し付けようとしたスランバ国もスランバ国だが。
「ご苦労だったな。そろそろサーファリアスが来る。もう下がっていいぞ」
「失礼致します」
宰相のサーファリアスは、時間に煩い。懐中時計を常に持ち歩き、時間を守ることを必定としてるので、その煩い宰相が来る前に退出をルイから促がされてギルバードが背を向けた時だった。ルイから意味ありげな言葉をかけられた。
「ギルバード。おまえは裏切らないよね?」
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