第84話・まるで癌みたいな女
「信じるよ。誤ってシーグリーン侯爵家を取り潰しにでもしてしまったなら、伯父上が悲しまれるだろうからね」
ギルバードは実はシーグリーン侯爵の実子ではなかった。母はシーグリーン侯爵家令嬢に間違いないのだが、父親は結婚を公に出来ない相手だった。その事を知るのは母亡き後、ギルバード本人と、その育ての父と彼の家族のみのはずが、なぜかルイには知られていた。そしてルイは聖遺物が眠っている場所をギルバードに教え、それを持って父に会いに行けと命を下した。
ギルバードは、そのおかげで実父と親子の対面が出来たわけでルイには頭が上がらないのだ。
「しかし、あなたさまは不思議なお方だ。先を見通す力でもあるのですか? メアリー嬢のことといい、聖遺物のことといい、イサベル王女のことも……」
「王女はジェーンの命を狙った反逆者だ。そのような者を余の妻として迎え入れるわけにはいかない。王女は我が国の者ではないから、我が国の法で裁くことが出来ないのは非常に残念な事だがね」
ギルバードの言葉にルイが被せるように言う。自分のことには触れて欲しくなさそうな主の態度にそれ以上、聞くのを止めた。ルイはスランバ国のイサベル王女のことを嫌っていた。それでも我慢して相手を勤めていたのは、相手方がルイの祖母のことを持ち出してきたからのようだ。
スランバ国から突然振ってきた縁談話に、何か裏があるのではないかとルイは疑い、ギルバードをはじめ、間諜を隣国へ飛ばしていた。そこで見えてきたのは、スランバ国は現在、あちらこちらで国民の手による暴動や、反乱が起きているということだった。ここ数年は不作続きで実りが少なく、国民達が食べるにも困るなかで王侯や貴族らが贅沢を極め、国民達に重い税をかけて酷使する為に、不満を抱えた国民たちが農具を片手に集い、貴族らの城を襲っているのだそうだ。
そんな国の危機的状況にあるのにも係わらす、隣国の王は何も手を打たず、隣の国のアマテルマルス国の豊かなことに目を付け、自国の王女を嫁がせて経済的援助をしてもらおうと、虫のいいことを考えていたようだ。それを知ったルイはイサベル王女の相手をするのも馬鹿馬鹿しく思われて、国に送り返そうとしたが、なかなかそれに王女が応じなくてルイはじれてきていた。そんな矢先にジェーンの暗殺未遂だ。ルイが暴走しないはずがない。
「まるで癌みたいな女だったな。上手く切り離す事が出来て良かった」
「ガン?」
「悪性の腫瘍みたいなやつさ」
「はあ?」
ギルバードにはガンなど聞き覚えのない言葉だ。どこからそのような言葉を陛下は学んで来るのだろう? 摩訶不思議だ。
「でもこれであの王女も終わりだろう。馬鹿な女だよ。ジェーンの命を狙ったりなんかするから。ジェーンに係わらずにひっそり生きていく分には長生き出来ただろうに」
ルイは冷酷な言葉を吐いた。
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