第82話・ギルバードが助けに来ただなんていえない雰囲気です


「仮にも元婚約者でありながら、義姉上さまの危機に颯爽と駆けつけなかったとは。男の風上にもおけませんよ」


 憤慨するスティールには言えない。ギルバードは助けに来たのだと。そしたら根掘り葉掘り聞かれて彼と過ごした一夜まで暴露しそうだもの。そうなると面倒になることが目に見えているし、ここは彼が思うような頼りない婚約者だったことにしておこう。今までが今までだったから不評の一つや二つ、加わろうと関係ないよね? ギルバード? この場にはいない彼に勝手に、心の中で事後承諾を取り付ける。


「ギルバードのことなんてどうでもいいじゃないか? 今夜はお祝いしよう。ジェーンが無事に帰って来たことのね」

「義姉さま。何が食べたいですか?」

「そうね。昨日のようなことがなければ、昨晩は鷹狩りの健闘を祝してスティールを祝っていたはずだから、食卓には燻製の鴨肉や兎肉の、パイやシチューが並んでいたでしょうね」


 パール公爵家では仕留めた獲物はすぐに燻製にしてしまう為に、数週間ほど前に燻製にしていたお肉を味わうことになっていた。公爵家では鷹狩りと言うと、燻製肉を心ゆくまで味わえる日でもあるのでそれを楽しみにしていただけに残念に思われた。

 そのわたしにスティールが言った。


「義姉さま。鴨肉ならありますよ。三週間ほど前に僕が仕留めたやつです。それを食べませんか?」

「まあ、嬉しい」

「料理長にお願いしておきます」

「ありがとう。スティール。大好きよ」


 父がお祝いしようなどと言ってくれたおかげで、スティールをギルバードの話題から逸らす事が出来た。わたしは大好きな鴨肉があると聞いて、早くもそのことで頭がいっぱいになっていた。

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