第79話・無事に救出されました


 その後は思ったよりも展開が速かった。ギルバードは自分の飼っている鷲のルアを呼び出すと、わたしの着ていたドレスの飾りのレースの一部を頂戴と言ってむしると、ルアの足に巻いて放した。するとすぐにルアが戻ってきて嘴に一房の葡萄を加えていた。


「迎えが来るよ。ジェーン。これでもつまんで待ってよう」


 ギルバードがルアから葡萄を受け取り、機嫌よく言ってくる。


「どうしてそんなこと分かるの?」

「ルアがお遣いしてくれたからね。よしよし、良くやったよ。ルア。後でご褒美あげようね」


 ルアはギルバードに褒められて満更でもない顔をする。ちょこちょこギルバードの後をついて動き回る。一見、怖そうな顔立ちのルアがギルバードを慕って後追いしてるようで見ていると可愛いかった。

 しばらくすると馬の蹄の音らしきものと、ガラガラと馬車の音がしてきた。ルアがクルックゥと鳴く。何か告げてるような態度でギルバードは狩猟小屋から出た。その後に続けば小屋の外に馬車と衛兵部隊がいた。


「ギルバード。無事か?」

「ああ。ジェーンは無事、保護した」

「それは良かった。姫さんを早くこちらに」


 ガルムが慌しく小屋に近付いてきた。


「ジェーン嬢。無事で良かった。公爵をはじめ、皆が心配しておりました」

「迎えに来てくださってありがとうございます。わたしがどうしてここにいると?」

「ギルバードがいま、ルアで知らせてきたのですよ」


 さっき、ギルバードが迎えを呼ぶと言っていたのはこういうことかと納得した。でも疑問は尽きない。


「衛兵のあなたがたが、わたしの捜索に借り出されたのですか?」

「まあ、そうですね。衛兵と言うよりはエメラルドグリーン家としてですが」


 どうしてこの場に副将軍までいるのかと不思議に思うと、ガルムは昨日、ギルバードをここまで送ってきたのに同行していたのだと言った。彼の説明では、ギルバードが連れてきた家中の者の中にガルムも混じっていたらしい。食事の時は大勢の人たちがいたから気がつかなかった。


 そこでわたしが川に落ち、陛下は鷹狩りを中断してわたしの捜索をエメラルドグリーン家に任せ、自身は疑わしい王女らを連れて宮殿に戻ったらしかった。彼らは森の中に天幕を張って捜索に当たり、日が落ちてからは捜索を一旦中止し、翌朝捜索することになっていたのだと教えてくれた。


「義兄さん、ジェーンは靴を履いてないんだ。川で流されたらしい」

「そうか。おまえ、その髪……、鬘はどうした?」

「ジェーンを救助する際に流された」

「その髪は目立って適わんな」


 そういうとガルムは自分の纏っていた黒いローブを脱ぎ、ギルバードの頭からスポッと被せた。


「おまえは俺達の後から来い。ジェーン嬢。馬車までお運びしますので失礼いたします」

「……!」


 ガルムは身を屈めて、わたしを抱きあげた。なにが起こったのかと思ったけれど、馬車の中に運ばれて気が付いた。わたしが素足なのでそのまま歩かせるわけにはいかずに馬車の中まで運んでくれたのだと。その気遣いが嬉しかった。

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