第72話・ギルバードに助けられました


「鷹狩りはどうなったかしら?」

「きみが川に落ちたと聞いて取りやめになったよ。きみが命を狙われたようだと聞いて、急ぎ陛下は宮殿に帰らざる得なくなった。陛下はきみの捜索の指示を出しながらも、イサベル王女をそのまま公爵領において置けないと判断されて、彼女も連れてお戻りになられた」


 それを聞いてすでにルイには事の真相は知られていそうだと思う。自分がイサベル王女の者に命を狙われたことも彼は知っているのだろう。そう思うといらっとしてきた。


「ギルバード。あなた王女さま付きの女官となにやら約束してたんじゃなくて? あなた、わたしに天幕の中にいるように言ったけど、わたしそのおかげで大変な目にあったわ」

「イサベル王女付きの女官には、どうも僕がジェーンに未練たらたらなのがばれていたようでね、陛下と王女が上手く行くように手を組まないかと持ちかけられて、僕としては愛しいきみが王女殿下の手の者に危害を加えられるのは嫌だったから、仲間になったふりして様子を見ていたんだよ」

「口では何とでも言えるわ」


 もう許婚ではなくなったのに愛しいジェーンだなんて良く言えるものだわ。と、思っていると、毛布を頭から被ったギルバードが隣に腰を下ろしてきた。


「イサベル王女が女官を使って、他の者にもきみを害するように指示していたとは思わなかった。自分達の天幕にまさか男達を集めていただなんてね」

「どうしてそのことを?」


 ギルバードは鷹狩りに参加していたはずなのに。と、思いながらもあの時、侍女達が男達と戦って、不利な時に飛び込んできた鷲の存在を思い出した。隣の彼と目があう。


「もしかしてあの鷲は?」

「僕だよ。男達の放った鷹を蹴散らす為に僕が放った」

「そうだったの……」


 思いがけない相手に助けられていたと知り、わたしの心は揺れた。


「でもきみが川に落ちて落ち着いていられなかった。あそこの川は急流だから早くきみを救い出そうにも、そのきみの姿が見当たらなくて森の中で迷ったんだ。そしたらソウが教えてくれてね」

「ソウってルイの飼っている隼よね?」

「ああ。だけど僕にも結構、懐いてくれているんだよ」

「そうなの? 知らなかったわ」


 でもそのおかげで助かったのだ。ここは素直に礼を言うべきだろう。わたしはギルバードに礼を言うことにした。


「あなたのおかげでわたし、命拾いをしたのね。助けてくれてくれてありがとう。ギルバード」


 すると彼は、自分の唇を尖らせて突き出してきた。


「なにかしら? ギルバード」

「なにってご褒美のキスだよ。ここは恋人同士、熱く交し合う場面ではないかな?」

「ふざけないで。いつあなたとわたしが恋人同士になったの?」

「たった今だよ」

「はあい?」


 なんだそれ? 睨めばギルバードがクックと笑った。


「冗談だよ。ジェーン。でも、きみが本当に無事で良かった。これで公爵さまや陛下も安心するだろうよ」

「でも今夜中に移動するのは無理ね」

「そうだな。きみの足の具合も気になるし、暗い森の中を歩き回るのは危険だ。きみにとっては不本意かも知れないが、明日の朝、ここを出た方がいい」

「分かったわ」

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