第71話・ルイだと思ったら……


「ここ、少し赤く後が残ってる。痛い?」


 背中にルイの手が触れて胸がどきりとした。彼の手が触れた場所が、ひりつくようないた痒さを伝えてくる。


「痛くはないわ。でも、そうやって触れられているとそうかもという気持ちになってくるわ」


 背中に柔らかなものが触れた。


「あ……」

「きみが無事で良かった。心臓が止まるかと思った」


 彼が背中にキスした事は何となく分かる。追及の声に誤魔化すような振りをしながらも、彼は背後から抱きしめてきた。なんだか背中ごしに告白されたように思われて気恥ずかしい。彼の濡れた体がこちらに前かがみとなって触れてきたことである事に気がついた。今更だけどルイにしては手が大きいような気もするし、身長が高く、声音も少し低いような気がした。


「あなたは誰? ルイじゃない」

「嫌だな。ジェーン。きみ、もう僕のことを忘れてしまった? 髪の色が変わっただけで僕だと気がつかなかった?」

「えっ?」


 毛布を固く握り締めた状態でくるりと体を彼の方へ向かされて驚いた。てっきりルイだと思っていたのにそこにいたのはギルバードだったのだ。彼はメアリー達の目を欺く為に髪を亜麻色に染めたことがあったが、今もまだ色は抜けていなかったらしい。わたしは意識がぼんやりしていたのもあって気付くのに遅れた。

 彼の濡れた亜麻色の髪から滴り落ちた水滴が、彼の顔の輪郭を辿り落ちた。わたしを助けてくれたのは彼だったのだ。


「ごめんなさい。わたしを助けてくれたのはあなただったのね? ギルバード」

「きみは僕を陛下だと思いこんでるようだったから、それに付き合っても良かったけれど。本当はきみは陛下に助けてもらいたかったんじゃないかい?」


 ギルバードは意地悪な聞き方をしてきたけど、わたしは首を振った。


「そんなことをもしルイ、いえ、陛下にさせてしまったならお父さまの立場がないわ。陛下を客人として招いておきながら、その陛下が川に落ちて姿が見当たらないとなればまず責任を取らされることになるでしょうね」

「ずい分と冷静なんだね?」


 そう言いながら甲斐甲斐しく彼はもう一枚、毛布を持ってきてそれをわたしの頭の上から被せてしまう。


「そのままだと風邪を引くよ。暖炉の前にどうぞ」

「あなたは?」

「僕も濡れたブラウスが肌に張り付いているから脱ぎたいんだ。きみが見てるから脱げないんだけど? 僕の体に興味があるの? 見たい?」

「結構よ」


 手にした毛布をしっかりと体に巻くと、からかう彼に悪態をついて暖炉の前に移動した。そこで足の裏がずきずきするのに気が付いた。足裏を少し川底の石で切ってしまっていたらしい。体の冷えのことばかり気になっていて足裏のことまで気が回らなかった。背後ではギルバードが濡れたブラウスを脱いでいた。

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