第66話・いつから戦闘系侍女になっていたの?
ギルバードに言われたせいではないが、天幕の中で大人しくしている事にした。この森はわたしにとって庭のようなものだ。だからギルバードに忠告されるまで慢心もあった。何があっても大丈夫だと思っていたのだ。
確かに今日は鷹狩りが行われているし、わたしが外に出て行ったなら、危害を加えようとしている者からすれば格好の標的が現れたことになる。事故に見せかけてわたしを撃つ事だって出来る。しかしそれを明らかにわたしの敵とみなされる側についたギルバードから心配されてるって変な状況だけど。
彼らの話を聞いてしまっただけに、いつ狙ってくるのか分からなくてドキドキする。ダリーの入れてくれた紅茶の味もなんだか味がしない。それだけわたしが他に気を取られていると言う事だ。刻々と時が過ぎ、ダリーを始めとする侍女たちと雑談に興じていた時だった。
突然、何かが天幕の中に飛び込んできたと思ったら、天幕が傾ぎ出した。一羽の鷹が飛び込んできたのだ。
「きゃっ」
鷹が逃げ道を模索するように猛禽縦横無尽に天幕の中を飛び回る。ダリーやリリーらはその場に身を伏せ、わたしはリーズに庇われて床に身を伏せた。
「お嬢さま。外へ……!」
リーズ導きで天幕の外へ出たわたしは、天幕が天上から潰れていくのを見た。
「きゃああっ」
後から他の侍女達も出てきて安心したものの、天幕から出てきた鷹はわたしを狙っていた。わたしに向かって飛び掛ってくる。それをリーズは果敢にもどこからか取り出した鞭のようなものを叩きつけ、撃退しようとしていた。その間に他の侍女がわたしを取り囲む。すると王女のいたはずの天幕からわらわらと見知らぬ男たちが数名出てきた。彼らは手に鷹を乗せている。
「あなた達……! 王女殿下は?」
「殿下なら愛しい陛下の後を追って行ったさ。後は俺らに宜しく頼むってさ」
震え上がったのはわたし一人で、取り囲む侍女たちは落ち着き払っていた。オナリーは「こういうこともあろうかと用意しておいて良かったですわ」と、言いながら教鞭を取り出した。そんなのどこに隠してた? である。ダリーはヌンチャクらしきものを小脇に抱え、マリーとリリーは掌サイズのボウガンを構える。
「おいおい、姉ちゃんたちそいつはちょっと物騒じゃないか?」
ちょっとどころではない。かなりである。男の言葉に内心突っ込みを入れてると、オナリーは睥睨した瞳を男らに向けていた。
「我らがお嬢さまを害そうとは下種な男達ですね。じっくりわたくし達が躾けて差し上げますわ。皆、遠慮なく叩きのめして差し上げなさい」
「「「「はあい」」」」
緊張感のない声が周囲に響き渡って、戦闘開始となった。リーズの背に庇われながら、ふと自分の侍女たちはいつから戦闘系侍女になっていたの? わたしこんなの聞いてない。と、心の中で叫びをあげていた。
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