第64話・まさかギルバード、企みに加担しているの?
鷹狩り当日。空は青く晴れ渡り公爵である父を先頭に、スティールやルイが鷹や隼を連れて後には侍従や護衛達を従い森の中に入って行った。その後からわたし達女性たちは、馬車で森の中ほどまで進み、川の側に天幕を張って森林浴を楽しんでいた。王女殿下の天幕と、わたし達の天幕は別に用意してある。
王女はわたしを馬鹿にしていた事がルイに知れてから、掌を返したように親しげな態度を取るようになり、女官達は渋々ながらもわたしの言う事を聞くようにはなっていた。わたしは全て容認するほど人間は出来てないので、彼女達の態度の変化を警戒していた。天幕を張るのも一応、同じ場所には用意したが、彼女らの会話が聞こえてこないように距離を置いた。悪口が聞こえてきたら平静でいられないだろうし、彼女らの事で一々目くじらを立てていたら時間がもったいないような気がしたのだ。
今日が来るのを心待ちにしていたのはスティールやルイだけじゃない。わたしも楽しみにしていた。スティールは何度かサービオを使い、獲物を狩る姿を見ているので彼らの勇姿が見れるのは誇らしい気がしたし、ルイはソウと懐けた鷹で華麗に狩ると噂に聞いていたのでそれを見てみたかった。
ぴいいいいと口笛が聞こえ、猟銃の弾丸が放たれた音と、人の歓声が上がる。早くも誰かが獲物を仕留めたようだ。森の奥が活気で満ちているのが風を通して分かった。
「一番乗りはスティールかしらね?」
「そうかもしれませんね。スティールさまはサービオを狩るのがお得意ですから」
「気になるわ」
「晩餐にはきっと沢山の兎料理が居並びそうですね」
「楽しみね」
「お嬢さま。どちらへ?」
「ちょっとご不浄に……」
天幕から出たわたしに、ダリーがどうしたのかと聞いてくる。トイレに行きたいと言えばあまり遠くに行かないでくださいね。と、言われた。鷹狩り観賞は好きだけど、難点となるのがトイレ事情だ。簡易トイレなどないのでその辺でこそっと用を足してくることになる。わたしは天幕から少し離れた茂みの中に身を隠し、用を済ませた時に、男女の会話を耳にした。
「……あなたならば何とかできるでしょう? あなたが頼りなの。力を貸して」
「分かりました。姫さまの頼みならば仕方ありませんね」
イサベル付きの女官が、一人の男にお金の入っているらしい袋を渡していた。何やら怪しげな話をしていた。男の声には聞き覚えがある。
「陛下はパール公爵令嬢にご執心のようだから、その令嬢がいなくなれば陛下も姫さまに気をかけてくれるはずだもの」
わたしは咄嗟に木の影に身を隠した。パール公爵令嬢と相手は言っていた。どうも女官はわたしがいることで、自分の主が陛下となかなか仲を深められないことに業を煮やし、男を使ってわたしを害そうとしていたようだ。
その計画を知ってしまって心が平静でいられなかった。しかも、女官がその為にお金を渡した相手が元婚約者だったなんて。その場から二人が立ち去るまでわたしは動けずにいた。
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