第63話・もしかして謀られた?


「いいえ止めません。わたくしはこのアマテルマルス国広しといえど、お嬢さまのように心優しく、常に相手のことを思いやれるようなご令嬢を他に知りません。高位貴族令嬢でありながら他人を貶めることすら知らない御方ですよ。逆に人が良すぎて心配したくなりますわ。お嬢さまはこの国で何と呼ばれているかご存知ですか?」

「知らないわ」

「アマテルマルスの聖女さまと呼ばれているのです。教皇様もお認めになったのですよ」

「ええ?」


 そんなこと初耳だ。ダリーやリリー、オナリーの顔を順に見ると皆が肯定するように首を縦に振っていた。


「…そうか。ジェーンは女王に相応しいか」


 室内に聞き覚えのある声が響き渡った。マリーが顔を青ざめさせながらルイを案内してきていた。


「陛下」

「ジェーンがそのように考えていたとはね」


 ルイの後にしたり顔でイサベル王女がついてきていた。それを見て謀られたと悟る。王女殿下はどうしてもわたしが目障りのようだ。自分がルイの隣にある為にも、排除する者は早めに追い落としたかったのだろう。その為にわたし付きの侍女を刺激していかにもわたしが王位を望んでいると思わせたかったに違いない。

 最近、王位簒奪劇が起こっただけに、ルイが警戒していると思って。


「今のはわたくしが不用意に申し上げた事でジェーンさまには関係ありません」

「いいのよ。オナリー。わたしが驕っておりました。いかようにも処分をお受け致します。陛下」


 その場で腰を低くし、陛下の裁断を仰ぐ為に頭を下げるとルイは「頭をあげよ」と、言ってきた。


「イサベル王女にはジェーンから嫌がらせを受けていたと聞いたが、余の知るジェーンは心優しき令嬢だ。しかも驕りたがぶることはない。余のお見合いの話を聞いて少しでも余に対する王女の心証を良くしようと心がけていた。双方、誤解が生じてるようだと仲介をしゃしゃりでた余が出すぎた真似をしたようだ。これで失礼するよ。ジェーン」

「あの。陛下。ジェーン嬢にお咎めは?」

「どうしてお咎めが必要なのかな? イサベル王女」


 イサベル王女はルイの判断に納得がいかないようで、踵を返しかけたルイを引きとめようとする。ルイは苛立つ様子を見せた。


「彼女付きの侍女がもしも、陛下の身に何かあればジェーンさまが女王になる可能性があると今言っていたのを耳にしましたわ。陛下もお聞きになったでしょう?」

「ああ。戯言だよ。万が一にも彼女が戴冠することなど起こり得ないからね」

「陛下はよほどジェーン嬢を信頼しておられますのね?」

「もちろんだよ。彼女は余や母が臣下に認められていない時から、臣下の礼を取り我ら母子に忠誠を尽くして来てくれたのだ。それに彼女は婚約破棄と共に王位継承権を手放し、一生、余のもとに仕えることを教皇の前で誓ってくれたのだからね。あなたの言うような王位簒奪など彼女に限って有り得ないんだ」

「え……?」


 呆然とする王女に、ルイは通告のように言い渡した。


「聖女とも揶揄される彼女を貶める発言をしたきみの女官は、そちらで処罰してもらって構わないだろうか? 余の国の者なら舌を引っこ抜いてやりたいくらいだよ」

「へ。陛下……」


 ルイは早足で退出して行き、その後を王女は慌てて追いかけた。


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