第12話・五宝家の一人、侍従長アズライト(25歳)アクアマリン侯爵家


 そこへ爽やかな笑みとともに掛けられた声があった。


「ジェーンさま。お越しでしたか」

「アズライト。こんにちは」


 ルイの侍従長で五宝家の一つ、アクアマリーン家の子息でサーファリアスと同い年。こちらもゲームの中ではヒロインの攻略相手の一人。紺色の髪にサファイアブルーの瞳をした貴公子で、サーファリアスが理知的であまり周囲に人を寄せ付けない感じがあるのに対し、こちらは気さくで優しい頼れるお兄さんといった感じの人だ。


「陛下。宰相さまがこちらに見えたと言う事は、執務にお戻りの時間ではありませんか? ジェーンさまのことならわたくしがお相手致しますので、どうぞ執務室にお戻りを」

「アズライト。それはまずくないか?」

「何のお話ですか? 宰相」

「いや。その……いくらここは宮殿とはいえ、他人の目がある。陛下付きの侍従長ともあろう者がパール公爵令嬢とふたりきりというのは醜聞になりかねない」

「わたくしは気にしませんよ。宰相。そのようなことを気にする方がどうかと思いますが?」


 サーファリアスの言葉にアズライトが食って掛かる。わたしはアズライトは普段から穏やかな男性だと思っていたので彼の態度に驚いた。


「どうしたのかしら? ふたりって喧嘩でもしてるの?」


 ルイに小声で囁くと、「ふたりはライバルだからね」と、平然としたルイの言葉が返ってきた。険悪な様子になりかねないふたりを見てもルイには止める気がなさそうだ。やれやれと呆れた目を向けるだけだ。わたしは居たたまれなくなって椅子から腰をあげた。


「あのわたし、帰ります。ルイもこの後、執務があるようだし」


 お邪魔になってはいけないので。と、言うと、ふたりは一斉にわたしを見て「では送ります」と、言い出した。


「あなたは何を言ってるのですか? 陛下とどうぞ執務室へ」

「いいや、令嬢を一人にはさせられない。馬車のところまでお見送りするだけだ。侍従長こそさっさと戻るがいい」

「そのようなことはわたくしが致しますので、どうぞ宰相こそ執務室へどうぞ」


 うぬぬぬとふたりはどちらも引かない様子で額を付き合わせている。ルイがどうする? と、見てきたのでわたしは側にいた女官に頼むことにした。


「そこのあなた。申し訳ないけど我が家の馬車を呼んでもらえますか? あとそれとあなたにわたしを見送ってもらいたいわ」


 承知致しました。と、女官はすばやく行動を起こし、それを知らない二人を遠めにわたしは帰宅の途に着いたのだった。

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