第13話・悪役令嬢の従弟登場!辺境伯オックス(19歳)◆ルビーレッド家


 

  公爵邸に戻って来ると、玄関先で義弟が誰かと争っているのが見えた。相手は真っ赤な薔薇の花束を抱えていて顔が見えない。玄関まで来ると、義弟のスティールがこちらに気が付き声をかけてきた。スティールは、本当は父方の叔母の息子なのだけど、わたしが嫁ぐことになればパール公爵家の後継ぎがいなくなる為、ギルバードと婚約が決まった時に、父が彼を後継ぎにすべく養子に迎えていた。

 スティールは灰褐色の髪色をしていて、青い瞳をした美少年だ。わたしより二つ年下でルイと同じ年になる。その弟がわたしの姿に気がついて笑顔を向けてきた。


「お帰りなさい。義姉上さま」

「ただいま。スティール。お客さまなの?」

「それが……」


 わたしの声に反応して薔薇の花束を抱えた男性が弾けたように振り返った。赤茶色の髪を濃紺のリボンで一つに束ねた彼は、とても麗しく洗練された美しさがあった。


「お帰りなさい。ジェーン嬢」

「……お久しぶりですね。ルビーレッド辺境伯さま」


 訪問客が彼だとは思ってもみなかった。彼の容姿は、わたしが良く知る女性にとても良く似ている。二人は従姉弟だと聞いているから似ているのは当然だとしても、なぜここに彼がいるのか理解出来なかった。


「当家に何か御用でも?」

「用がなければ来てはいけませんか?」


 ルビーレッド辺境伯は可笑しそうにわたしを見る。彼は十九歳という若さでルビーレッド家の当主の座についていた。辺境伯という立場柄、領地にいるのが常で王都にいるのは大変珍しい。その彼の王都の屋敷には、先代王の娘にして従姉であるメアリーさまが住んでいた。

 メアリーさまは先代王の第一王女だったが、母君がその後、子供に恵まれなかった為に男子を欲しがっていた王から離縁を申し渡され王籍から外れて、実家であるルビーレッド家に戻った話は貴族達の間では有名な話である。


 そのメアリーさまとライバルとされているわたしのもとへ、彼がやって来るだなんて何か目的があるとしか思えなかった。今まで彼とはたまに宮廷で顔を合わせることがあっても軽く会釈するぐらいで、お互いの屋敷を訪れるような仲ではない。


 サーファリアスやアズライト達よりも関係は希薄だと言ってもいい。その彼が訪問してきた。何用かと訊ねてもおかしくはないと思うけど? と、思うわたしに、彼は仰々しくその場で跪いて大輪の薔薇の花束を手渡して来た。



「どうか私のことはオックスと。我がアマテルマルス国の聖女、ジェーンさま。あなたさまにぜひ我が家で咲いた薔薇を献上したく伺いました」

「まあ、素敵な薔薇ですね。オックスさま。でもわたしが聖女だなんて大げさですわ」

「いやいや、あなたさまに相応しい称号ですよ。私はあなたさまのように姿が美しいだけではなく心根の清い女性を知りません」

「ま。お上手ね。あなたさまのすぐ側には美の女神さまがいるのではなくて? 嫉妬されないかしら?」

「私は彼女にとって家族のようなものですから、嫉妬されるまでもありません。それに私の好みの女性は姉妹にしか思えないあのお方ではなく、あなたさまのような御方です」



 メアリーさまの従弟のくせに、敵に媚びてどうするのかしら? と、伺うと彼は比べる必要もありませんよと言ってくる。


「あら。まるでわたし求愛されているみたい」

「そのつもりです」

「本気ですか?」


 茶化して聞いたのに、真顔で答えが返ってきた。

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