第10話・少年王ルイ


「ジェーン。聞いたよ。ギルバードとは婚約破棄するんだって?」

「さすがは陛下。お耳が早いですのね?」


 数日後、わたしは宮殿に来ていた。国王陛下ルイのもとへお見舞いに来ていたのだ。ルイは体が弱く寝付くことも多かった。幼い頃は元気に宮殿の庭を走り回っていたような気がするのに、年々体力が落ちていってるように思われてわたしは気が気でなかった。


 少年王ルイとわたしは従姉弟同士。彼の父とわたしの母が同母の兄妹で非常に仲が良かったため、わたしは幼い頃から母に手を引かれ彼の遊び相手としてちょくちょく宮殿を訪れていた。彼はわたしより二つ年下で、わたしにとっては弟のような存在でもある。


「ジェーン。人払いしてるから陛下は止めてよ」

「分かったわ。ルイ。今日はね、料理長に頼んであなたの好きなタルトを特別に焼いてもらったのを持ってきたわ」

「エッグタルトだね? 美味しそうだ」


 亜麻色の髪の美少年は、わたしの持ち込んだタルトを見て目を輝かせた。わたしの好きな新緑色の瞳だ。お皿に取り分けられたタルトを見て彼はすぐに口に入れようとする。


「ちょっと待って。ルイ」

「ジェーン?」

「あなたはわたしの味見が済んでからよ。うん。美味しい。大丈夫、召し上がれ」


 わたしは先に味見をする。そして何も味に変化がないのを確認してからルイに勧めた。わたしはルイの体調不調について気に掛かる事があった。女官の手によって二人の前に運ばれてきた茶器は銀食器。そこに何も変化がないのを確認して口に運んだ。


「ジェーンは心配性だなぁ。きみのところの料理人が余に毒を盛ることはないよ」

「信用はしてるけど。万が一を考えてね」


 苦笑するルイを見て、あなたのことが心配だからと告げる。ルイには他にも兄弟姉妹はいたのだ。でも無事に成人を迎えた者は少ない。皆が表向き病死とされてはいるが、その裏はどろどろしたもので、王位継承争いで互いの命を狙いあい、ルイと義姉のメアリーを残して皆が共倒れとなった。その中で一番、暗躍したのが毒殺だ。それをわたしは不安に思っていた。


「大丈夫だよ。これでも余は慣れている」

「えっ?」


 毒に慣れてると言われた気がして目を疑う。わたしはルイが寝付きやすいのは、彼の服毒を疑っている。ゲームの中でルイは毒殺されていたからだ。前世の記憶を取り戻した事でわたしはそれをどうにか回避できないものかと思っている。

彼が生き続けて王位を磐石なものとしてくれれば、メアリーに王位が回ることはない。メアリーに王位が回ればそれは血塗られたものとなる。彼女が王になってまずすることは政敵を次々に断頭台に送ることだったから。


 ギルバードと婚約破棄したことで、権勢力の強いシーグリーン侯爵と離れられて未来が開けたと思っていたが、果たしてそうだろうかと不安が募ってきた。これで逆にあのメアリーに目を付けられてしまったのではないだろうか? 

 政敵が「自分は王位を狙ってない」と、言い出して「はいそうですか」と、簡単に済むのなら、王位継承問題はここまで後を引くはずがない。あのメアリーならわたしが例え、修道院にこもっても、国外に逃れたとしても、追っ手を放って自分の王位に色を持たせる為に断罪を敢行しそうだ。


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