第2話・前世でも今生でも男性を見る目がなかったようです
このゲームは深窓のお姫さま育ちで人を疑うことを知らないヒロインが、周囲の思惑で王位継承争いに巻き込まれる話なのだ。女王の座を狙うライバルの悪役令嬢が出てきて足の引っ張り合いや色々と罠を仕掛けて邪魔をしてくる。その彼女を上手くけん制し、五宝家と呼ばれるイケメン貴公子たちのイベントをこなし、好感度を上げないと戴冠式を向かえる事が出きず、最期には悪役令嬢に国家反逆罪をでっち上げられて断頭台の露と消えてしまうことになるのだ。
しかも、このゲームはヒロインがバッドエンドを迎える確立が非常に高い。ヒロインなのに断罪され良ければ追放、最悪死刑に処される。何とも解せないゲームだとは思っていたが、製作サイドがいつもしてやられる悪役令嬢に同情していて、ヒロインを徹底的に追い込むゲームにしたのだと裏情報で知った時には歓喜した。
あの時は自分も腐っていた。長年付き合っていた恋人を、ポッと出の新人後輩に奪われて苛々していたのもあって、儚げな感じで綺麗ごとしか言わないヒロインの姿に恋敵が被り、彼女を苛め抜くことで快感を覚えていたのだ。
「今のわたし最悪じゃない」
自分の立場を理解してため息が漏れた。今の国王は若干十四歳の少年王ルイである。それまで王位継承者は病死や、王位争いで次々と共倒れしていた為、男子王族は彼のほかにいなかった。あと王族の血を引く者となれば彼の腹違いの姉で十九歳のメアリーさまか、もしくは先代王の妹の娘であるわたし、ジェーン・シルバーしかいない。しかも少年王ルイは病弱なので長生きはしないだろうと言うのが医者の見解だった。
この流れで行くとメアリーさまが後継者になるのが筋だと思われるが、ところがこれに宗教関連が絡み合い複雑な事情を抱えていた。この国の国教はルシアス教だが、ルシアス教はプロテ派とカトリ派という二大勢力に分かれていて、メアリーはプロテ派、ルイとジェーンはカトリ派に属していた。
カトリ派は伝統性を重要視していて昔から伝わってきたものを、代々後世に伝えてきた重みのある教派なのに対し、プロテ派は時代と共に儀式が略式化されていった万民受けのする教派である。
ルイ王はカトリ派なので、少年王の後ろ盾となっているルシアス教のカトリ派の教皇は、王の後継者をプロテ派という自分達と対立している、庶民受けした教派から立てるわけにいかず反対していた。
それを見通したギルバードの父、シーグリーン侯爵は、いち早くわたしの父のシルバー公爵に歩み寄り、自分の息子との婚約を取り付けた。貴族間の結婚なんて政略がらみが当たり前。将軍職にもあるシーグリーン侯爵は野心家だった。彼は五宝家の一つエメラルドグリーン家の当主でもある。
恐らく今の国王の身に何かあればメアリーさまとは犬猿の仲である侯爵の事、わたしを次の後継者に推す事は必定な気がした。すでにメアリーを貶めるべく影で暗躍していそうだ。このまま見逃せばわたしジェーンは、後で巻き返しを図ったメアリーの一派に断頭台へと追いやられる。無事生き延びる為には、ギルバートだけには近付いてはいけなかった。ギルバートとの未来に明日はない。
「わああ。やだあああ。詰んだ。詰んでる~」
「ジェーン? なに? どうしたの?」
これまでのジェーンは宮廷事情に疎かった。生粋のお嬢さま育ちだった為に、シーグリーン侯爵の野望など見えてなかったのだ。そればかりかシーグリーン侯爵の子息であるギルバードに引き合わせられたときに、彼の美しい容姿に一目惚れして婚約に乗り気になったのだからちょろいものである。
ギルバードはジェーンのことを大人しい令嬢だと思いこんでいた。突如、大声をあげたわたしを奇異なものでも見るような目で見ている。
でも構うものか。誰だって自分が可愛いものだ。自分が死ぬかもしれないと思ったら、取り繕ってる暇はないはず。
わたしはまじまじと婚約者の顔を見返した。ギルバードは顔はいい。でもそれだけだ。どうしてこんな口だけ男に引っかかっちゃったかなぁ。と、非常に残念でしかならない。わたしって男を見る目がないよね? 前世のわたしもそうだけどさ。
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