第25話 『05式特戦乙型』それは『宇宙世界のベルゲパンツァー ティーガーⅠ』 無敗回収車両伝説始まる

 誠は呆然として自分の最終魔法『吐瀉』のタイミングを計る。


 その目の前で島田はタバコを吸いながらかなめの機体を完全にするーして隣の機体に足を向けた。


「西園寺さんの機体も『赤い』ですね。決まりなんですか?『火盗』の機体は『赤い』って」


 島田がタバコを咥えたまま振り返る。


「うちは基本的に人間には『自由』を認めてんの。オメエは『野郎』で『新人』だから『人権剥奪済み』なの。『偉大なる中佐殿』の方針だ。『体育会系縦社会』それがうち」


 とんでもない発言をしながら島田は三機目の東和共和国陸軍塗装の『05式』の前まで来た。


「これは普通に緑色ですね。カウラさんの機体ですか?塗装が東和陸軍標準色なのは……パチンコ依存症でも見た目は普通ですからね、あの人」


 そんな誠の感想に対して、振り向いた島田は明らかに軽蔑する視線を向けていた。


「神前。オメエはあの『パチ女』のパチンコ愛を舐めてる」


 カウラの機体、背中に色々と機材がついているのが分かる『05式』を、そう言って島田見上げた。


「こいつは『05式電子戦特化型』。指向性ECMや電子ジャマーを搭載した『戦場パチンコ台を作り出す』機体だ。つまり、『パチンコホール』を経営するために必要な機体なんだ……とさ、カウラ・ベルガー大尉殿が言うには」


 誠はカウラのパチンコ愛に恐怖した。


「色も台にあるような色に塗れって言うけど……分かるか!って、俺がブチ切れたから塗ってない。予算もねえからな」


 そう言って島田は『アサルト・モジュール』の固定用機材の後ろの通路を進んだ。


「で!ここ!神前の専用機の来る予定地!」


 口にタバコを咥えた島田はそう言って何もない空間を指さす。


「何もないですけど」


 誠は島田の指さす何もない空間を見回す。


「ここに持ってくるとうちの資産と見なされて税金がかかる。だから、隣の工場に置いてある。だからここには来ねえんだ」


「税金……何税ですか?」


「そりゃあ、『固定資産税』に『危険物登録税』やその他もろもろ。国や地方公共団体、その他、軍関係機関だって国や県に税金納めてんだぞ。知らねえのは馬鹿だけ」


 馬鹿に馬鹿扱いされた世の自分は馬鹿じゃないと思っている人に、誠は同情していた。


「まあいいや、うちの『05式特戦』は何度も言うが、重装甲、銃火力、高運動性による格闘性能の高さから、宇宙で戦う『タイガーⅠ』とも呼ばれる『アサルト・モジュール』だが、絶望的な機動性と航続距離、生産コストの高さなんかで『武装警察特殊部隊』のうち以外採用されていないわけだ」


 島田はその場でうんこ座りをしてタバコを吸い、手にした『マックスコーヒー』ロング缶を床に置いた。


「他に採用している国がねえから、その貴重な機体を回収する機体が必要なわけ。それが、神前の『05式乙型』ってわけだ」


 誠の前でタバコをくゆらせていた島田が誠を見上げてそう言った。


「やっぱり『回収』専用機なんですね」


 確かに戦場で活躍するには誠の特殊能力『もんじゃ焼き製造』が発動するので無理だとは思っていた。


「他の女共の機体がでかい大砲を持つ代わりに、左利き用アームのついた『クレーン』を装備、腰部にワイヤードラムを装備してる。その重装甲を生かして最前線での危険な『回収』作業なんかをやるわけだ」


 結局、専用機でも誠の『回収』に特化した機体を与えられることが確定しただけだった。


 島田は新しいタバコに火をつけると話を続ける。


「必殺技は戦場のど真ん中で『クレーン』で引っ張ること。ワイヤーで戦場のど真ん中で戦っている目標を、『玉掛け』の資格を持つ神前が勝手にワイヤーで縛って引っ張る。とんでもねえ必殺技だ。びっくりするな敵は」


 完全にギャグである。装甲が厚くて敵のど真ん中まで行けたとして、どうやって嫌がる敵をワイヤーで縛るのか。


 そう思いながらタバコを吸いながら、誠の機体が来るはずの空間を眺めている島田だった。


「自衛用の武器もある。熱性のでかいサーベル。俺等が『ダンビラ』って呼んでるのが二本だ。両方左越し。サムライみてえだろ。まあそれも『偉大なる中佐殿』にも同じものがあるからオリジナルじゃねえけどな」


 誠は思った。『人類最強』の『魔法騎士』と同じ武器で勝てる自信は絶対ない。剣道道場の道場主の母を持つ身でも絶対無理だと確信していた。


「そして背部のフックを利用して『大型コンテナ』が連結可能。最前線の機体への補給を行う事もできる!」


 そう言って島田は右手を握りしめて感涙していた。誠は泣くようなことは一言も言っていないことに気づいていたが、怖いので黙っていた。


「当然、集中攻撃を受けるよな。戦場のど真ん中でせっかく撃墜した機体を『回収』されたり、弾切れの敵に『補給』されたら面倒だからな。そこはお前の『おとこでなんとかしろ!俺達『火盗技術部・通称:應援團』は『隊旗』を掲げてエールを送り、一生懸命『応援する』」


 島田はそう言うと、タバコを『マックスコーヒー』ロング缶に押し込んだ。


「これが神前の機体のオリジナルだ。読め」


 ヤンキーはつなぎのポケットから一枚の紙きれを取り出した。誠は仕方なくそれを受け取った。


「『ベルゲパンツァー ティーガーⅠ』?なんで戦車のプラモの広告を……」


 戦車のプラモには結構詳しい誠である。そんな彼でもその初めて見た『タイガーⅠ』によく似た戦車のリアルな絵を見て目を惹きつけられた。


「偉大なるその戦車は最強戦車軍団を最強にした究極の『回収戦車』だ。オメエモ『回収界』のエースになれ」


 そう言うと島田は立ち上がりタバコに火をつけ立ち去った。


 誠はチラシに目を通した。


 そこには次のように書いてあっt。


 『ベルゲパンツァー ティーガーⅠ』第二次世界大戦のタイガー1のエース部隊『第508重戦車大隊』で貴重なタイガー1の回収に活躍した。ソ連軍の猛攻下でも各坐した同戦車を回収した。


「タイガーⅠ戦車専用『回収戦車』か……でも『タイガーⅡ』の方が有名だけど……」


 そう愚痴る誠は最後の説明文に目が行った。


 その後、より重装甲・大火力の『タイガーⅡ』が開発されたが、『タイガーⅡ』には回収型は存在せず、戦地で故障してもドイツ軍はそれを回収する手段が無かった。故障車両はすべて連合軍に利用されることを恐れた軍により爆破放棄された。


 誠はどうやら自分は『最強の回収者』を目指す定めにあることを悟って、緊張感から口から酸っぱい液体を吐いた。

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