第24話 珍兵器05式乙型の『秘密』

「……でだ」


 そう言って島田は目の前のとりあえずほとんど足しか見えない機体を眺めた。


「05式の特徴だが……非常に『重装甲』だ。『機動性』を『犠牲』にした結果、『重装甲』を実現した」


 誠は息を飲んで胸を張って言う島田の言葉を聞いた。


「そして、重火器が積むだけのパワーがある。『位相転移式エンジン』と言うものを導入しているので、当然運動性も高い。そして、腰についた高温式大型軍刀装備だから格闘戦が出来る。つまり、その戦場に着きさえすれば、ガチンコ最強の死角なしのまさに、『タイマン最強兵器』ってことなんだが……」


 そう言って島田は口を濁した。長身の誠を一度見上げてため息をつく。


「なんですか?凄いじゃないですか!死角がないなんて!」


 そう言って喜ぶ誠だが、島田は頭を掻き、タバコを咥えながらつぶやいた。


「『運動性』は最高水準だが、『機動性』が……『致命的』に劣る。航続距離もメジャーな『アサルト・モジュール』の6割以下。大量導入なんて考える馬鹿な軍はどこもないわけだ。戦場に着いたときは戦争が終わってるようなレベルの遅さ。まあ、『位相転移式エンジン』のパワーの振り分けが間違ってるからそうなんだけどな」


 どうやら相当の『珍兵器』であると島田は言いたいようだ。そう思うと自然と誠を見る目も冷ややかになる。


「巡航速度が著しく劣るだけで、空も飛べるし……宇宙でもなんとか戦えるが……要するにこいつはお前の好きな『タイガーⅠ』なんだわ」


 そう言って島田は下を向いて黙り込む。


 誠は突然その長身を生かして島田を見下ろした。目が完全に据わっていて、さすがの島田も何も言えなかった。


「言っておきます!ナチスの兵器は参考にはなりますが!嫌いです!『四号戦車H型』は好きです。あれは国防軍なんで!でも『タイガーⅠ』は好きじゃないです!武装SSの平気ですから!タイガーとかパンサーは!」


 さらに身長に物を言わせて誠は叫ぶ。そしてそれに島田が怒りに震えてにらみ返した。


「『戦車』の話はどうでもいいんだよ!ようするにだ!汎用性ゼロなんだよ!こいつは!」


 さすがに現役の『ヤンキー』の島田である。一気に形勢は逆転し、誠が島田から見下ろされて説教される立場になった。


「兵器で機動性ほぼゼロってことはだ!致命的なの!いっくら強くても!量産する価値ゼロなんだよ!正式化した国は、それしか作る能力の無かった変わった国なんだよ!」


 そう言って怒鳴る島田はヤンキーらしく迫力があり、一時の情熱に支配され、慎重にものを言わせて見下していた誠はあっという間に島田から見下される立場になった。


 さすがの島田も縮こまって怯えている後輩をいじめる趣味は無いようだった。静かに咳ばらいをして、タバコをふかし目の前のかなめの真っ赤な機体を眺める。


「っつうわけで、東和でダメ、遼州外惑星連邦でダメ……ゲルパルトで比較検討するってことでアグレッサー部隊の隊長の試験機として05式が一機試作されたのが、このクバルカ中佐の機体。当然、コックピットが『ちいさい』ので他に乗る人がいないからここにある」


 島田が指さす赤い『アサルト・モジュール』。誠も座学でランの操っていたという『赤兎』と呼ばれた無敗の『アサルト・モジュール』の伝説を思い出した。


「他の遼州星系の国には、そもそも買うにも金が無い……ってのをだ。何故か隊長が気に入ってな」


 突然、誠の脳内にあの『駄目人間』のエロ本を読んでいる姿が目に浮かんだ。


「俺の知る限り、他に3機作った……予備部品まで含めると……20機分……って他の誰が買うんだよ!こんな機体……という訳で『05式乙』……それがお前の機体の今のところの仮称……なんだよ『乙』って!『お疲れ様』か!それなら、『偉大なる中佐殿』の機体は『先行試作型』とかつけろよ!パイロット8歳児限定だがな!」


 島田は怒りに任せて、ランの赤い機体の隣にある、深紅の05式の足下に吸っていたタバコを投げつけた。


「『乙』ってなんです?『回収・補給』型ってことじゃ……」


 誠は純粋にそれしか聞くことが無かった。


「俺が知るか!『クレーン』や『回収機材』なんて後付けでいくらだって付けられる。それなら『回収型』ってつけるだろ。複合装甲の間に変な物体が入ってる。防弾性能なんて無さそうだから……装甲薄くしてどうすんだ!意味ねーだろ!」


 怒り狂う島田を見て誠もさすがに分かってきた。


『『回収・補給』向けの機体と言うのは実は単なる言い訳で……僕の『スキル』が……』


 そう思うと誠は目の前の『隠し事が出来ない馬鹿』な整備班長島田正人曹長の言葉に聞き耳を立てた。


「隊長と『偉大なる中佐殿』に聞いたら『動けばいいじゃん。問題ねーから絶対触るなよ』の一点張りだよ!おれは整備班長!技術部部長だよ!俺が知らねえで、誰がこいつのメンテすんの!」


 そう叫ぶ島田。誠はどうやら何かある。そう思いながら、いずれ自分専用の機体が来るであろう『アサルト・モジュール』の開いている空間をぼんやりと眺めた。

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