遼州星系国際情勢と栄光の?05式特戦(愛称未定)

第23話 限りなく頭の悪い『整備班長』と『アサルト・モジュール』

『安城です』


 誠は機動部隊・詰め所の電話の子機でその声を聴いた。


 想像するに30代美女。あの自分と同い年くらいに見える『駄目人間』46歳にはもったいない女の人のように感じられた。


「わかりました、少々お待ちください」


 誠はカウラに教えられたようにそう言って子機の保留ボタンを押した。そして、嵯峨の内線子機へ、その電話を転送する。


『はーい、嵯峨です』


 間抜けな嵯峨の声が、誠の受話器から聞こえた。その音声に、何故か自動車の行きかう雑音が入っていることはとりあえず無視した。


「おい、神前」


 受話器を置いた誠。彼の後ろから男の声が突然聞こえて振り返った。


 そこにはあの『純情硬派なヤンキー』が立っていた。当然、どこであろうが彼はタバコを吸っている。


 島田はどうやら『火盗』の指定のモノのようなつなぎを着ていた。


「ほんじゃあ、いいもん見せてやる……いいもんとは言えねえが、パイロットなら見たがるもんだ」


 そう言って島田は無意味に広い機動部隊執務室を出て行こうとする。。


 誠はその後に続いた。


「島田先輩、いいものってなんです?」


 とりあえず命の危険はなさそうなので、誠は笑顔でそう尋ねた。


「まず、そこの通路を『右』に『左折』する」


 真面目に背中で語りつつ、島田はそう言った。


「へ?」


 確かに廊下は十字路になっているし、右にも左にも行くことが出来る。


「島田先輩……『右』に『左折』するって……」


 焦りながら誠はそう言うが、島田は全く気にせずそのまま左の通路を進んだ。


「こうするんだ」


 良い顔でその『ヤンキー』は誠を振り返る。


 目の前には大きな扉があり、白いつなぎを着た男性隊員が、島田に最敬礼して、扉の隣のスイッチを操作する。


 誠は隣に『馬鹿なヤンキー』島田の隣に立って巨大な扉が開くのを見ていた。


 扉の向こうにはそろいの白いのつなぎを着ている。右胸に『火盗』と刺繍された技術部員の作業時の制服と決められているようだった。


「こいつ等は完全に俺に心服し、『奴隷』としての日々に満足している立派な兵隊だ。『心』が『奴隷』軍事警察だったらうちの隊員の資格がある。そしてオメエにゃそれがある。だからオメエが私服だろうが関係ねえよ」


 誠は島田の『奴隷』と言う言葉が気になったが、口にすると命の危険があるのでやめた。


 そう言いながら島田は口に咥えたタバコを取り出し、男性隊員が差し出した手のひらの上に押し付けた。


「何をするんですか!」


 さすがの誠も島田の『いじめ行為』に叫び声をあげた。


「俺は班長だから、こいつに『根性』を教えてやったの。『根性焼き』」


 そう言うと島田はつなぎのポケットからタバコを取り出した。


「いいんですか?ここ禁煙ですよ」


 さすがに『根性焼き』は嫌らしく、『根性焼き』をやられた隊員は手に『マックスコーヒー』ロング缶を持って島田に手渡した。


「ついてこい」


 それだけ言うと島田はそこにある一番手前の扉に向けて歩き出す。誠はその後に続いた。


「うちは……『火盗』なんて書類上の略称で呼ばれてる。いつもは俺達は、それを名乗るのが恐れ多いってんで、『実働部隊』って呼んでるよ、自分らを」


 そう言いながら島田は一番端の扉を開けた。


『おはようございます!』


 入ったとたんにくわえタバコの島田に挨拶する技術部員達。島田は軽く手を挙げると、そのまま真っ直ぐ廊下を進んだ。


 誠は技術部員達が誠達に必ず立ち止まって礼をしてから別の部屋へと走っていく光景をただただ感心していた。


「こんなにいたんですね、島田さんの兵隊」


 確かに各部屋からひっきりなしに別の部屋に走る同じ水色の兵隊達の数は相当数だった。男ばかりかと思えば女性の姿も見える。その全員が島田の姿を見かけると、立ち止まって一礼する。


「まあな、数は俺の兵隊と俺の観察日記をつけて笑ってる将校共を足しゃあ、全部で百人強だ。まあ大所帯とは言えるな」


 島田はさらっとそう言った。


「将校まで部下に……力で従えたんですか?」


 誠はドアから島田の兵隊達が出てくるドアが開く度に響く爆音や鉄を何かで叩いているような音を観察していた。


「うちに来る将校は、技術をもっちゃいるが、心が半人前だ。だから俺の言う事を聞く。うちで腹が座っているのはまず、『偉大なる中佐殿』だ。あのちっちゃい姐御が一番腹が座ってる。隊長が『駄目人間』で『どう見ても迫力が無い』からしかたねえんだがな」


 そう言いながらもう二百メートル以上続いてきた廊下の突き当りに誠達はたどり着いた。


 巨大な30メートルはある高さの扉の前に立った。つなぎの整備班員も分かっているらしく、その背中に誠は緊張感を感じた。


 島田はタバコをくゆらせた。そして、静かに目をつぶりこう語った。


「神前……俺はな。あの可愛らしい『偉大なる中佐殿』に出会って……人生が360度変わったんだ」


『元に戻ってるよー!』


 そんなツッコミの代わりに、消化済みの胃の内容物を吐き出すことを誠は考え始めた。


「おい!そこの!俺の権限をやる……開けな」


 島田はそう言うと近くの兵隊に声を掛けた。兵隊はそのまま突き当りの扉の隣の中型の画面に直接タッチして何かのキーワードを入力している。


「まあオメエも『一応』パイロットだ。『偉大なる中佐殿』と『危険物姉ちゃん』二人。うちには腕には保証付きの三人の女パイロットを飼ってるってことは、当たり前だがうちには『アサルト・モジュール』ある」


 誠は唖然としていた。だが、考えてみれば当然の話である。ランは『アサルト・モジュール』パイロット史上『人類最強』のエースである。屯所の広大な敷地の中に『アサルト・モジュール』が無いと考える方が不自然なのである。


「開きます!」


 どうやら扉のロックシステムの解除コードを入力していた兵隊が叫んだ。


「こいつが、うちの切り札だ……」


 そう言いながら島田は『マックスコーヒー』ロング缶にくわえていたタバコを押し付ける。


 同時に真っ暗の広大な空間に光がともる。そして真っ赤な何かの足、おそらく誠が初めて見る型のロボット兵器『アサルト・モジュール』の脚部の一部が目に入った。


 確かにそれはこのお間抜けた部隊の最終兵器と呼ぶにふさわしい存在。誠にはそう思えた。

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