第16話 『偉大なる中佐殿』の裏『お国自慢』 『向上心ゼロ』の遼州人の民族性

「『遼帝国』……何度も言うけど、アタシが生まれた国だ」


 誠は最終必殺魔法『ゲロ』を発動する準備をしながらランを見つめた。


 ランは時々見せる『昔を思い出すいい顔』をして誠を見つめていた。


「その国は前の大戦で、あまりにも戦争で負けすぎるから、全味方の軍に呆れられていたんだ」


 『いい顔』をするランの言葉はとてもステキで可愛らしかった。誠はその言葉の内容以外は納得した。


「戦争そっちのけで武装漁船とか、いつの間にか武装していた市民と戦ったりした。アタシも戦ったな……アタシ以外の連中はほぼすべて負けた!連中はアタシと違って、真の『スキル』に目覚めていなかったっッてことだ」


 誠に理解できたことは『人類最強』の戦友は『ド素人』相手のぼこぼこにされたという事だった。


「すげーだろ!他には真似できねーだろ!ふつー負けねーぞ!えれーな!アタシ等!」


 『偉大なる中佐殿』は急に元気になって叫んだ。


 彼女の『裏お国自慢』は続く。延々と続いた。


 遼州人が戦争を始めると『絶対に負ける』こと、同盟した地球人をいかに『落胆』させたか。結果、地球圏から遼州星系が『無視』されていること。


 『人類最強』の『偉大なる中佐殿』の熱弁は続いた。


 誠は『恥』を晒して熱弁する8歳女児にひたすらうんざりしていた。


 一言、『それは恥だ』と言う地球人の使う『禁則ワード』を言えばいいが、誠は死に無くは無かった。相手は『人類最強』なのである。恐らく隠し持った『魔法のステッキ』を使って、そう言った誠を瞬殺するだろう。


 そう思った誠は、自分達遼州人の恥をさらす幼女の言葉を無視していた。


 その結果、誠の意識は、5年前に食べた『ボンゴレスパゲッティー』をどうやって食べたかを思い出していた。


『箸?……手づかみ?フォークだっけ?』


 そんな誠の『完全無視姿勢』とは関係なく『魔法少女』の演説は白熱する。


「『スキル』に目覚めた人間は、捕虜になったらひたすら泣いて謝る。だから生きて祖国の地が踏めるんだ……そこはアタシ等のオリジナルだ。地球人にはできねー発想の転換だ。アイデンティティだ。やっぱスゲーよな!アタシ等!」


 窓の外を見ていたランの視線が誠に向く。


「そんなアタシ等、偉大な遼州人とその仲間達が住む『遼州圏』に生まれて!よかったな!神前!」


 『軍服』を着た幼女が感極まって誠の肩を叩きながら叫ぶ。


 体が硬直している誠。その思考は『ペンネ』と言う言葉が何を意味するのかについて必死に考えていた。


「それと、地球人が攻めてくると、まず、反撃することより、神様に祈る方が早い信心深さ……人間のあるべき姿だ。南無阿弥陀仏」


 ランは『神』と言ったはずなのに、なぜか『念仏』を唱えた。誠は『真言宗智山派』なので興味が無かった。


 目をつぶり、手を合わせていたランが、今度は遠い目をして虚空を見つめた。素敵な可愛らしい幼女の笑顔がそこにあった。


「アタシはその『神』に倒されて『友達』になった……今でも『文通』してるよ……元気かな……『神』」


 目の前でいい顔をしている幼女。もはや誠は理解することすら放棄していた。


 きっと『すっごい魔砲』でぶっ飛んで撃墜され『友達』になってこの次元世界の平和を守っているのだろうと勝手に考えていた。


 ランは普通の顔に戻り誠を見つめた。その幼女の口元にトマトソースがついていない事実を誠は認めたくなかった。


「だから、アタシ等、遼州人はいつも思ってる。地球圏で戦争なんて恐いからやらないでほしい!聞け!ここが大事なんだ!」


 さすがに明らかに聞き流している誠に気が付いたランが怒鳴り声をあげた。


「それは……自慢できますね。平和的で」


 そう言った誠を見るとランは突然、両手を顔の前にかざす。


 ランは静かにその手を顔の前で組み合わせた。それは地球の『忍者』のするポーズは、誠が知る限り『印』と呼ばれるものに似ていた。


「オン・ダラ・ダラ・ジリ・ジリ・ドロ・ドロ・イチバチ、シャレイ・シャレイ・ハラシャレイ・ハラシャレイ・クソメイ・クソマ、バレイ・イリ・ミリ・シリ・シチ・ジャラ・マハナヤ・ハラマ・シュダ・サタバ・マカキャロニキャ・ソワカ……」


 ランはめをつぶってそう言った。そしてそのまま誠を見つめる


「オメーが魔法のことばっかり考えるからやった。これがアタシの魔法の呪文。サンスクリット語なんだと。魔法の効果?アタシの軍団を『修羅の軍団』に変えて、アタシが『阿修羅明王』になるだけだ、地獄を作る……それが魔法少女のアタシの使える唯一の魔法だ」


 誠はランの言葉の意味が全く分からなかった。どうでもいいのだ。ケセラセラ……誠もそう言う意味でどこまでも遼州人だった。 


「あと、これも遼州と言う星が地球に自慢できることがある」


 ランは何故か悪い笑みを浮かべながらそう言う。


「なんです?」


 明らかにやる気が尽きている誠にランは笑顔を浮かべてこういった。


「実は、アタシ等は、地球がリアル『ジュラシックパーク』だったころから、『焼き畑農業』をやっていたんだ……これは教科書には載ってねーからな……知らなくて当然だ」


 自慢のように言うランだが誠はそのことが自慢になるとは思えなかった。


 つまり、7000万年前から『焼き畑農業』『だけ』やってた『アホ』だという事が自慢だと目の前の幼女は言いたいらしい。


『それって、単に進歩が無くて向上心ゼロだってことじゃ……』


 自分達が『ネタ』の宝庫の無駄に『農業』に執着するお笑い宇宙人である事実を知らされた誠だった。


 誠は自分が理系になるわけだと静かにうなづいて納得した。


 そして口から大量の『酸っぱい液体』を床に吐き出した。

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