『亡国の帝』が『アホ達』を使って進める計画 『竜2号計画』

第17話 『駄目人間』の過去と『謀略』 誠の運命を話し合う『主従』

 何故か音楽が流れている。


「一応、お約束。曲は……」


 『自称46歳』の『若く見られるのが大嫌い』な男がタバコを咥えて、そう言った。


 正面に立つのはクバルカ・ラン中佐(永遠の8歳女児)だった。


 彼女と似た制服の夏仕様を着こんだ、自他とも認める『駄目人間』の机の上はその『脳ピンク』な生活を支える『情報誌』が散乱していた。


 突然、部下から『隊長』と呼ばれている男、嵯峨惟基特務大佐はうなだれる。


「これ……違う。この曲じゃねえよ。日本映画じゃなくて、洋画の方だよ。『ラストなんたら』のテーマ。そっちを流して。俺の人生はそっち系だから。二度ほど国が『あぼーん』したり、毎食、飯が中華料理だったけどさあ。俺の見ている前で三国志のコスプレしてたよ、みんな。親父と呼ばれる生き物が『酒色』で『アレ』したりする方は『生』で経験してるんだ。だから、そっちの『教授』が作ったオーケストラの曲をお願い。……部下が後に『世界の〇〇』とか呼ばれたことねーよ。この曲『なんたらのメリークリスマス』のテーマだろうよ。違うよ、そっちじゃねえよ……」


 嵯峨はそう言って顔を上げた。いつも通り目は死んでいた。


「アタシにその裏設定ネタを振るか?どう落とせって……?アタシは『スネークマン』じゃねーかんな。笑えねえ感じになって、結果、血を見る」


 ランはそう言って左手の『孫六』の柄に右手を添えた。


「いーよ。痛いの嫌いだから……多分、蘇るけど。そっちも経験済み。全部犯人は『地球政府』の『公務員』……と言う事にしといて。『百万回死んだ俺』って絵本にすれば売れるんじゃない?」


 まったく生気の感じさせないどう見ても二十代の男は、安そうな『甲種焼酎』と呼ばれるアルコールを口に含んだ。口元にはスルメのゲソが覗いている。


「馬鹿はいい。腹を切ってからにしろ。本題を言え『バーカ』」


 命令口調の偉そうな『女侠客』8歳をぼんやりと眺めて、嵯峨は顔の下のスルメに視線を落とす。


「誠もさー。馬鹿だよな。一言、『逃げたい』って言えばいいのに……アイツ『社会』とやらを誤解してんぜ。まったく」


 タバコを『マックスコーヒー』のロング缶に置いた嵯峨は、ランの存在を無視したようにスルメを口に運ぶ。


 そして嵯峨はスルメを噛みながら静かに視線を机に落とす。


「よくやった。ラン。神前は落ちた。完堕ちだ。アイツには逃げるつもりはねえな。俺の勝ち。まず1勝」


 そう言って嵯峨は顔を上げる。その死んだような視線をランに目を向けて不敵に笑う。


「そう、これが俺流の戦い。俺が進めてる『竜2号計画』に必要な手駒はこうしてそろえる。これ、俺の特許」


 嵯峨の前のモニターにランの率いる『火盗・機動部隊』の執務室の監視カメラの映像が映っていた。


 そこには取って付けた事務机に座っている誠の姿があった。すでに『火盗』の制服に着替えた『大型もんじゃ製造機』と言う二つ名を獲得した青年はだまって座っていた。机の上には内線の子機だけがあり、その隣でエメラルドグリーンのポニーテールのカウラが誠に内線の使い方を教えていた。


「これで……『回収・補給』向けのパイロットが……」


 ランは彼女の意向と関係なく勝手なことをする嵯峨を見て話すのをやめた。


 嵯峨は机の上の『エロ記事』が売りの週刊誌に視線を投げたままで黙り込んだ。


「さすが『中佐殿』……当たり……盗聴器だよ。当然、あるわな……普通の役所の建物だもん。ここは……」


 そう言うと嵯峨はランに視線を向ける。顔は満足げに笑っている。


「趣味がわりーぜ。『皇帝陛下』」


 ランは多少聞こえよがしにそう言った。嵯峨は静かにうなづく。


「興味あるなら聞けば?俺は全部、その『裏』をかく。こっちの配牌、肝心な『ツモ』は俺以外、知らねえーよ。バーカ」


 『駄目人間』の『脳ピンク』が満足げに笑った。手には再びタバコがある。


「俺もそいつが何かは知らねえな。察しはつく、俺の頭には『脳味噌』が詰まってるから」


「アタシはどうなんだ?」


 タバコをふかす嵯峨にランはそう言った。


「お前さんの頭にも『脳味噌』が詰まってるよ。……ちょっと、頼みたいことがある」


 そこまで言うと、嵯峨はエロ雑誌の下から一枚の写真を取り出す。


 そして、嵯峨は軍人風の丸刈りの東洋人の写真をランの前に置いた。


「なんだよ……この軍服。『甲武国』の『海軍軍人』……それも『エリート』だな。面で分かるよ。虫唾が走る!その野郎をどうしろってんだ……」


 ランの視線の先で嵯峨は静かに目を閉じる。


「ちょっと、『殺生』をしてくれ。『社会的』に消してくれ。『生物学的』には興味がねえから。俺」


 そう言うと嵯峨は静かに『甲種焼酎』の入ったグラスを口に運ぶ。


 ランは静かにうなづいて、辺りを見回す。


「盗聴器の件だろ?オメエが周りを見たの……聞きたい奴は聞けばいいさ。アイツ等『社会的』には人間扱いされてるだけの『有機物』だもん。俺みたいに『脳味噌』が入ってる『人間』の言葉なんざ……分からねえよ」


 酒を飲み、スルメをかじる嵯峨。


「その過程で、神前が俺達と「同類」になるのが目的。この男のことは、正直、本当はどうでもいい。それが『陸軍中野学校夜間部』主席の俺の流儀だ……『雷蔵』の役と似たような偽名を使ってた時もある」


 沈黙が続く。


「なあに、こいつが『エリート』過ぎて『有機物』の集団。……『甲武』の文化至上主義過激派の『官派』をあおって『クーデター』とか言うのをするらしいんでね。消えてほしいというだけの話。遼州の偉い人の多数決の結果、俺のところに話が来た……それだけの話。つまんねえだろ?お耳障りは勘弁ね『中佐殿』。いずれ『火盗』にも正式に指示が出るはず……命令書の『書式』は知らねえが」


 そう言うと嵯峨は静かにタバコをふかして『エロ記事』を読み始めた。


「……以上。お話は終了。ご苦労さん……自称『善人』の『人間以下の糞虫』さん」


 嵯峨の視線は、その言葉とは無関係にエログラビアに張り付いている。


「エロ無しでどうにかしろ。『駄目人間』!『おっさん』!」


 突然、嵯峨は真面目な表情でランを見つめた。


「俺は『悪内府』だから『悪党」!でも『ロリコン』じゃねえ!見た目がアラフォーの美女!それ以外は興味ねえ!」


 突然、ランをにらみつけた嵯峨はそう叫んだ。


「うるせえー!『脳ピンク』!オメエの女の趣味なんざ!……」


 ランが気が付いた時には、すでに嵯峨はニヤニヤ笑いながらタバコをくゆらせていた。

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