『社会不適合者集団』の救世主!それは『回収・補給』のプロフェッショナル (バトル系魔法少女アニメの登場人物ではないらしい)
第8話 すべては『駄目人間』の差し金 『変な雑誌』を『職場で堂々と』読む『社会不適合者の親玉』
誠とランはその『火付盗賊改方』の『屯所』と呼ばれれる建物の『隊長室』と書かれたドアの前に立った。
「神前。覚悟しろよ、あの嵯峨という見た目は『若いツバメ』に見えるおっさんの本性知ったらドン引きすんぞ、オメー」
ランはそう言いながら誠を見つめた。
そこには誠への『同情』の念があった。
もうすでにランの言葉に後悔の念しかなかった誠にはどうでもいい話だった。
ドアノブをランの小さな手が押しあける。
「おい、駄目人間」
可愛らしくて、『不殺不傷』を誓う、『仁義の人』、クバルカ・ラン中佐が『隊長室』に入るなりそう言い切った。
ここは『火盗』隊長室、のはずである。ドアを入ったばかりの誠にはその言葉の意味が理解できなかった。目の前のでかい机がいかがわしい雑誌とカップ酒やつまみで埋め尽くされているのが見えて、ランの言葉の意味が分かった。充満するタバコの煙でそれが確信に変わった。
「駄目人間だよ、俺は。そんな事、十分理解してるから。今更、指摘しないで……ふーん、そうなんだ。次、行くところの候補に入れ……」
隊長室の大きな机の前にランと並んで立った誠は、目の前の大きな机の向こう側に座っている男に目を向けた。彼こそが誠をこんな『特殊な部隊』に引っ張り込んだ張本人。すべての悪の元凶、嵯峨惟基特務大佐その人だった。
嵯峨は週刊誌のようなものを読みながらタブレットをいじっている。その目は眠そうで、誠が見た嵯峨の姿が取り繕ったものだったかを感じさせるほど、緊張感のかけらもないものだった。
「脳ピンク。常識人だったら子供達の前で読むのが恥ずかしくなる本を、アタシ等の目の届かないようにしろ。自重しろ、バーカ」
一応は上官である。冷や冷やしながら誠はランに目をやった。軽蔑を通り越し、汚物を見るような目がそこにあった。
「それはねえ、職業差別っていうんだよ。この雑誌に載ってるお店で働いてるお姉ちゃん達に失礼じゃないの。謝んなさい。まあ、趣味と実益を兼ねてる人もたまにはいるけど、それそれ人には都合ってもんがあるんだ……」
ランは大きなため息をついた。
「そいつ等だって事情があるぐれーのことは知ってんよ。だがな、そう言う『お店情報』の雑誌の『発売日』に『職場』で堂々と読んでくれとは思ってねーと思うぞ。読むなら隠れて読め。聞くところによると、そう言う店は朝なら割引があるんだからとっとと行ってこいよ。どうせすることないなら今から行けよ。目が汚れる。いっそ死ね」
ランは初めてこの光景に立ち会った誠から見ても、何度も同じセリフを繰り返してきたことがよくわかるようにすらすらと酷いこと口にした。
「あのー隊長が読んでる……のは……もしかして……」
「そんな遠慮して隊長なんて呼ばなくていいよ。駄目人間とか脳ピンクとか呼んで。俺、プライドの無い男ってのを売りにしてるから。これ?泡の出るお風呂とか、マッサージとか、キャバクラ……はあんま好きじゃない。俺の言う事、理解していないんだもん。気分悪くなるよ。俺はインテリなの。『源平時代の白拍子』とか『初期の吉原の太夫』の正統後継者として期待してるわけ」
嵯峨はそう言うと携帯端末を机に置いた。
「これでいいんだろ?中佐殿」
未練たっぷりと言う感じで嵯峨は渋々端末から手を放す。
「その風俗情報誌『夜遊び』をアタシの目の届かないところに置け。どこでもいい、アタシの視界から消せ。つーか、オメー死ねよ。死んでくれ。宇宙から消えてくれ、消滅してくれ。ホント、マジで」
ランはまさにごみを見るような視線でそう言った。
「お店のチェック途中なのになあ……『夜遊び』の売りはね、店のコードをスキャンすると、小三枚とか値引いてくれるから。いいでしょ」
ここまで駄目な人間が母の知人だということに誠はショックを受けていた。変な大人だとは思っていたが、ここまでひどいのを目撃したのは初めてだった。
「良くねーわ!この『特殊浴場』通いのスケベニンゲンが!」
さすがのランもキレた。これまでで、見た目は幼女で口は悪いが、ランは伝説のエースにふさわしい大人物であることは誠にもわかった。
その上司が勤務中にエロ雑誌を堂々と読む男である。
誠は室内を見回した。その光景がまたイカレテいた。
一番目に付くのは壁際にある日本の鎧である。日本史の知識が無い誠にもはっきりとそれとわかる黒い鎧がある。まずこれが目に付く。
その隣には和風の弦楽器、たぶん『琵琶』と呼ばれているもの、そしてギターが置いてあった。この二つはあってもいい、好きなら弾いても人間性を高めることはあっても貶めるようにはならない。
その他は雑誌の山。多分『性的な意味』のある雑誌なのだろう。目の前でランに威嚇されて嵯峨は風俗情報誌を隊長らしい大きな机にある袖机の引き出しに座った。
他にも戸棚が二つあるが、どうせろくなものが入っているわけではない。
『こいつは……正真正銘の駄目人間だ。一刻も早くこの救いようの無い馬鹿共と縁を切ろう!』
誠は軽蔑の目で嵯峨を見つめながら、どんな啖呵を切って辞めてやるかを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます