『素敵な夢』から覚めて『終わった工場』の中で『さいきょうようじょ』が語る『仕事内容』

第6話 幼女の愛刀『関の孫六』秘話 『名門財閥最古の終わった工場』と文化財『人切り包丁』の機能

 いきなり上司の車で『もんじゃ焼き』を製造するわけにはいかないので、誠は車が動き出すと錠剤を呑んで眠った。


 錠剤は当然『酔い止め』。誠はすぐに眠りについたので、醜態をさらさずに済んだ。


「あの……」


 いつの間にか眠っていた誠が目覚めた。薄曇りの空、窓ガラスの内側に結露が見えることから、外の湿気はかなりのもののようだ。


 真夏。8月の東都。曇っていても30度は軽く超える。蒸し暑さ想像して誠は汗をぬぐった。


 東都宇宙軍の本部地下駐車場で眠りについて、気が付いたらこうして『偉大なる中佐殿』の高級外車の中である。外を見る気分にならなかったので、とりあえず伸びをして、『可愛らしい萌え萌えロリータな大侠客』の座っている座席の後ろを眺めた。


「『馬鹿』がやっと起きたか……よく寝てたんで、声を掛けそびれた」


 ランはそうつぶやく。誠は車の外を見た。巨大なコンクリートの建物が見える。すれ違うトレーラーはには何も積まれていないものばかり。車中に目を戻し、モニターを見た。そこにはただ黒い画面があるばかりで、何も映ってはいなかった。


「酒のつまみ……『あん肝』……を食べる『鉄槌の騎士』……」


 まだ夢の中にある、大きさが自在に変化する不思議なトンカチ『なんとかアイゼン』を持った、赤い魔法幼女の活躍の光景に意識を引きずりながら、誠は尋ねた。バックミラー越しにランを見る。特に出会った時と同じように、ちんちくりんな女の子は余裕の表情を浮かべていた。


「寝ぼけてんのか!ここは『魔法世界』じゃねえ!『現実』見つめろ!周り見ろ!窓の外みりゃーどこかわかるだろ!状況見ろ!察しろ!そんなだからド下手なんだよ。見てみな」


 ランに言われて周りを見た。そこには灰色の巨大な建物の群れが続いていた。


「ここは……工場?でかいですね」


 一台のトレーラーが誠の乗る車とすれ違う。そこにはまるでトイレットペーパーのような加工済みと思われる金属を積んで走っていく。


「ここは『菱川重工豊川工場』だ。でけーぜ、工場巡回バスで回ると一周するのに一時間かかる」


 ランの言葉にようやく誠は周りの工場群が何者か理解した。


 東都共和国の有力財閥『菱川グループ』の重要企業『菱川重工業株式会社』。


 その中でも『豊川工場』は東和共和国が地球圏から独立し、建国して以来の伝統がある工場だった。


 ド演歌の鼻歌を歌いながらランは続けた。


「ここは金属の後処理が一番のメインだからな。航空機も作ってるが、ここである程度組み立てた後、コンテナに積んで別の工場で最終組み立てをやるんだそーな。オメー『理科大』の工学部だったよな?そんなこともわかんねーのか?社会人失格だな」


 一応、『偏差値教育の申し子』の誠は反論する。


「理工学部です!うちの方が難しいんです!」


 誠はそう言って怒った表情をしてみせた。


「似たようなもんじゃねーか。なんでもいーんだよ。コンテナに載せるってことは、当然大きさに制限がある。つまり、工場としては終わってるんだ、ここは。花形の最終製品出荷なんて諦めた、ただのでっかい部品工場。その原料も素材企業から買うしかないから、金属系や化学系の会社からの仕入れ素材の値段を決めることすらできない。でっかい町工場。それがここの本当の姿だ。どうだ、『偉大なる中佐殿』は社会や産業にも通じてんだ。『勉強』しな……『道』を知りたきゃ……もっとな」


 ランは静かにそう言った。ランの言う通り、巨大な灰色の建物には人気が無かった。多くの建物の窓は真っ暗で電気がついていないように見えた。


「終わった工場……」


 誠は周りのかつては活気にあふれた、その大きな搬出出口からして、何か大型の機械を作っていたらしい暗い生産ラインの入っていただろう建物に目をやった。


「『じょうしゃひっすい』って奴だ。大学受験で古文の問題によく使う……。オメーは私立理系だもんな。文章力0だもんな。日本語しゃべってるのが不思議なくらい国語力ねーもんな」


 静かにランはつぶやいた。また当然のように誠をディスる。


「インテリなんですね……ちっちゃいけど」


 本当に感心してうなづきながら誠はランに話しかけた。


「『道』を知れば、そうなる。アタシは『渡世人』だから、まあ『古典』ぐらい知ってるさ。『勉強』しな!」


 ランはそう言って運転席の左隣の木製の木刀のようなものを指さす。


 誠はそれまで気が付かなかった運転席の隣に立てかけてある木刀に目をやった。誠の実家は剣術道場をしている。当然目はあった。


「木刀?……真剣!これ!本物ですか!これ!」


 驚きの表情を浮かべて誠は叫んだ。


「これは地球の『文化財』だ。ちょっと有名な『芸術品』だよ。そう言う許可で『普段から』持ち歩いてる。まあ、機能的に『人は斬れる』けどな」


 ランは当たり前のようにそう言った。誠はまたランの言葉に違和感を感じた。


「『芸術品』……『人が斬れる』芸術品ですか?危ないですね」


 誠は木刀のように見えるやくざが『白鞘』と呼んでいる長い『ドス』を見つめた。


 彼の理性はだんだんおかしくなっていた。


 ランはそのまま笑顔で誠に目を向ける。


「ちょっとした名品だな、こいつは。『孫六』だよ。『関の孫六』。主に『人の首を斬り落とす』用途』に使用されていた『古美術品』だ。『人の命を奪う事が出来る芸術作品』と言っていー」


 平然とランはそう言った。誠は『理系脳』なので、ランが殺伐とした『骨董品』の紹介の意味を全く理解していなかった。


 ランはぶぜんとした表情で振り返り、目が点になっている誠をにらみつけて続けた。


「わかんねー奴だな!人の首を落とすための『文化財』なんだよ!人を切る包丁!『人切り包丁』。そう言う『文化財』なの!そう作られているんだから。人を見たら『首』を切断してやるのが……そいつの為だろ……『文化財』の正しい使用法を教えてあげないとかわいそーだからな。『文化財』の『機能』の『確認』のために時々は使ってあげなきゃ」


 さも普通にとんでもない危ないことを言う。誠は理解を超えた『危険思想』に怯えて『一時的』に意識を手放した。


『言っていることは理解したくないな……』


 誠のそんな『悩んだ』表情をランと言う名の、どう見ても8歳女児の『魔法騎士』としか思えない存在は見逃さなかった。


「『悩んでいる』。それは、いーことだ。大いに『人の道』には悩みな……それはすなわち、『悪の華』そのもの。それが『人生』だ。外道とはその結果、心から『悪』に酔えばもうその時点でそいつは『外道』だ!例えば『白を黒』と言ってごねてる奴!そいつは『外道』。それに酔った瞬間、アタシはそいつと戦争を始める!当然そいつは死ぬ!なぜなら、アタシは『人類最強』だから!」


 珍妙な理想的ロリータの爆弾発言の意味を誠は深く追求しなかった。その言葉がプリティーな幼女ボイスで語られる状況に誠はとりあえず萌えていた。


 脳内では誠の好きな『バトル系魔法少女アニメ』が絶賛放送中だった。

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