作戦が立てられる
「でもさぁ、おでんを食べるからにはさぁ、普通の場所じゃ面白くないよなぁ」
「そうだ、ヨーロッパ的なお墓の並ぶ場所がいいだろう。ミスマッチで面白い」
「外人墓地かな。いい心霊スポット、あるといいね」
「よしわかった。都内、心霊スポット、外人墓地、検索…………」
そのような流れで決まった収録場所が、緑川外人墓地であった。
戦後間もなく作られ、都心周辺で亡くなった外国人が多く眠るこの墓地には、母国に骨を埋められなかった人々の無念が今も漂っている、と、オカルトサイトに書いてあった。
夜このそばを通ると、白いドレスを引きずった女性が中をさまよっているとか。
古いスーツを着た老人がとぼとぼと歩いているとか。
肝だめしがてらに侵入した若者たちが痩せ細った少女に追い回されたとか。
興味本意で大学生が軍靴の音を聞いて立ち止まると、片足のない黒人兵士が横切っていったとか。
そのような体験談は枚挙にいとまがない、ここは都下最強のスポットのひとつだ、と、オカルトサイトに書いてあった。
「心霊スポットでおでんを食べる動画を通じて、バンドを知ってもらう」
この本末転倒なアイデアに4人が小指の先ばかりだけ残していた違和感が、この最強の心霊スポットの発見により霧となって消えた。
これはすごい場所だ。
俺たちにもついに運が向いてきたんだ。
「いつ行く」kyoが横を向くと、nightもkyoの方を向いていた。目が合った。
「善は急げと言うぞ。それに皆、明日はバイトがあるだろ」
後ろにいたblueとvalleyを見る。彼らは黙って首を縦に振る。
「今夜だ。今夜、やろう」
kyoはおごそかに言った。
5秒後、kyoはスマホで緑川外人墓地の場所を調べ、車で行けるルートを検索していた。
nightは押し入れを開けて動画撮影用のカメラと三脚、それにライトを取り出した。
動画サイトに上げた1曲目(再生回数102回)、2曲目(再生回数89回)をPV風に撮った時以来の出番である。
blueはメイク用具と鏡を出し、メンバーそれぞれが使うものを振り分けている。
V系のメイクはしばらくしていなかった。半年前のライブぶりだ。それも小さな箱での、内輪な詰め合わせ的ライブである。客席にはこの後に出てくるバンドと、この前に演奏したバンドしかいなかった。
valleyはアパートを出て車を飛ばした。スーパーで肉と野菜とレンジでチンするご飯、それにおでんの具各種を買い、素早く戻ってきて、エプロンをつけて狭い台所に立った。
15分ほど経った。
「墓地、ここから飛ばして最短で20分だ」kyoが言う。
「9時には撮影をはじめたいな」nightはバッテリーを確認している。
「衣装はどうしよう?」blueは尋ねた。「メイク道具は揃えたよ。衣装も出す?」
「うん、そうしてくれ」
「そっちの方が派手でいいだろう」
2人が答えた直後に、
「はいっ、チャーハンできたよぉ。おでんは今煮込んでる」
valleyが4人分の皿を器用に持ってテーブルの上に置いた。
「さすが中華料理屋だ」nightがvalleyの肩を叩く。
「料理人は仮の姿だってば。俺はドラムスだ」
「さぁ早く食べちまおう」kyoがレンゲを取った。
「メイクに30分、衣裳とヘアセットに30分。9時で撮影するにはギリギリってとこだ」
「じゃあ、ここからはもう無駄口無しだね」blueもレンゲを取る。
kyoは、みんなの顔を見回した。
「そうだ。ノンストップでやる。動画を撮って一発逆転、名前を売って、そしてみんなに俺たち、艶夜華~adeyaka~の音楽を届けるんだ。……じゃあみんな、今夜は気合入れていくぞ!!」
おう、と3人がkyoに向かって頷いた。
「いただきます!」
「いただきます!!!」
半年前のライブ以来の、かけ声だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます