3.胸騒ぎの快晴

それから数日後の、快晴の日。

学校帰りの後、瑠久は夜葉の宿屋を手伝っていました。

漁港があるこの街では出稼ぎの漁師や行商人の行き来も多く、今日も宿屋の食堂はごった返しています。

ところが。

「緊急のお知らせです!住民の方々は、すぐに集会所に集合してください!」

村のお役人が、方々に呼びかけています。

瑠久は夜葉たちと、集会所に向かいました。

「ここ最近、狐哭島周辺に出没していた不審な船が、島に来襲したとの情報!おそらく盗賊と思われます、戒厳令をしきます!」

集められた人々は、どよめきました。

「安全のため住民は家から出ないように!行商人や出稼ぎの漁師たちは、なるべくこの街から速やかに離れる事!以上です!」

住民たちは、それは大変と慌てて引き上げていきました。

「と…盗賊!?」

瑠久は、以前に瑠里に読んでもらった新聞の記事を思い出していました。

「狐哭島にやって来たってのは、やっぱり…」

「かもな。それ以外に目当てもないだろうしな、あんな島…あ、いや、失敬…」

会話している大人二人に、瑠久は思わず話しかけていました。

「し、島に!」

「うん?どうした、坊主」

「島に今いる人たちは、どうなるの!?」

街の人は頬を掻きながら、言いました。

「防人(※治安防衛の軍隊)は派遣されるだろうけど、この国はこういった時に、とにかく頼りにならんから…」

ため息交じりに話す男性に、もう一人も頷いて言いました。

「政府が対応したときには、盗賊とやらにさんざん荒らされた後だった…なんてことになるかもしれんぞ。一昔前の火山噴火の時も、災害救助隊の派遣が遅れに遅れて大勢の犠牲が出たしな。今回も、そうなっちまうかもな…」

「そんな…!」

瑠久は、飛びだしていました。


************************************************


目が痛くなるほどの快晴の下、街の沖合い六里(※24km)ほどに浮かぶ狐哭島は、漁港に立ち尽くす瑠久からも見ることができました。

「あ、ここにいた!」

夜葉が、息を切らしながら駆けつけてきました。

「突然、飛び出しちゃったから…」

瑠久は夜葉にちらりと目をやりましたが、すぐに海に視線を戻し、こぶしを握りました。

「今日は晴れてるけど、じきに嵐が来るかもしれないって…。危ないよ、帰ろ」


************************************************


夜葉と宿屋に戻ってきた瑠久は、夜葉のお母さんにお願いしました。

「おばさん、お願いします!どうしても島に行きたいんだ」

「瑠久くん。今日、街から戒厳令っていうのが出たのよ。安全のため住民は外に出るのもできるだけ控えるように、って。学校も当分お休みになったわ」

「で、でも!」

「というか、そもそも島に行く方法が無いのよ。私たち一般市民は船を出すのも禁止されたの」

「う…」

「気持ちはわかるわ。けれど、ご両親だってお姉ちゃんだって、逆に瑠久くんを心配しているんじゃないの?」

「っ……」

黙り込んでしまった瑠久を、夜葉は見つめていました。

夕食の後。夏至直前の長い日も落ち、閉め切った宿屋の窓が外の風で微かに鳴ります。

「瑠久は、もう寝たみたいだよ」

「そう…。夜葉、あんたも早めに寝なさい。店も開けられないし」

「うん…」

夜葉のお母さんは、お酒を飲んでいてあまりご機嫌が良くないようです。

「客の入りが減ったら、こっちも商売あがったりよ。…ったく、あのクソ男。養育費もろくに払わないで…」

「ママ。そういうこと言うの、やめてよ…」

夜葉は服の裾をいじりながら、うつむいて呟きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る