タバコ

ネルシア

タバコ

大学内の喫煙所。

ここ最近、若い人はタバコをあまり吸わない。


「なんでかなぁ……。」


そう呟きながら煙を空に向かって吐き出す。


ボケーッとしながら青空を見てると近くから泣き声が聞こえてきた。


こんな場所で?


喫煙所は大学敷地内とはいえ、屋外でかなり離れたところの誰も来ないような場所にあった。


どうしても気になってタバコを吸いながら、近付いてしまう。


タバコの煙か匂いがで気づいた泣いてた子が振り向く。


「誰か……来るなんて……グス……。」


目を真っ赤に腫らして、私が来たことに驚いてしまった女の子。


可愛らしい子だなぁ……。


「まぁ、会ったのも何かの縁だし、話聞くよ?」


そう言うと一言一言呟き始めた。


まとめると、レズで彼女がいたが、振られたとの事だ。

しかもその別れ方もやっぱり男の方がいいという理由からだ。


レズ……ねぇ……。


今まで恋愛とか全く興味を持っておらず、付き合うとか自分には関係の無いことだと思っていた。


「良いなぁ……。」


「何が!!!」


すごい剣幕で怒鳴られる。


「いやさ、私って恋愛感情湧かないからそういう幸せも苦しみも味わった事ないからさ。」


フーっとタバコの煙を吐きながらボヤく。


「……ならこの寂しさを埋めてよ。」


ずかずかと近づいてきて、後ろにあった壁に激突してしまう。

逃げ場がなくなり何をされるのかと目を瞑る。


唇に柔らかい感触。


目を開けるとキスをされていた。

逃げ出そうとするが、手を抑えられ離れられない。

持っていたタバコも落としてしまう。


「……ちょっと!!」


やっとの思いで引き離す。


「……苦い。」


何とも言えない表情になられ、カチンと来てしまう。


「いやいやいや、私のファーストキス奪っておいてその言い草は無いんじゃない!?」


「別にいいでしょ!?貴女は恋愛なんてしないんでしょ!?!?」


それだけ言うとその人はどこかに行ってしまった。


「あー!!もう!!なんなの!?!?」


イライラが募り、タバコに火をつける。


「……キスって悪くないな。」


あんな形で奪われたのにも関わらず、その感触だけが残っていた。



次の日、喫煙所でまたタバコを吸っていると昨日の子が来た。


沈黙は気まずくなると思い、話しかける。


「あんたタバコ吸うの?」


「吸うわけないじゃん。自分の寿命を縮める愚か者を見に来ただけ。」


なんでコイツはこういうこと言うかなぁ……。


「なら言わしてもらうけど副流煙の方が致死率高いんだぞ!!」


フーっとその子の顔面に煙を吹きかける。


ゴホゴホとむせ、手で煙を払う。


「ほんっとあなたってデリカシー無いよね。」


「無理やり私の唇奪った人に言われたくないですぅー。」


互いに睨み合ったまま時間が過ぎる。


「またね!!」


キレ気味でその子が講義へと戻っていく。


またね?

え、なに、なんで?


「ほんっと分からないやつだなぁ……。」


その後も互いの悪口を本音で言い合う関係が続いた。

でも最初の険悪さは無くなって言った。


数ヶ月が経ったある日。


「まーたタバコ吸ってる。」


両腕を組みながらいつも通りの文句を言いに来た。


「私にはこれしか生きがいがないんですぅ。」


「……なら1本ちょうだいよ。」


「え?」


驚きだった。

非喫煙者からしてみればタバコなんて意味不明なものに過ぎない。

なのにそれを欲しがるなんて意味がわからない。


「いや、良いけど……なんで?」


「いつもそんなに美味しそうにしてるから気になるじゃない。」


「吸ってる私が言うのもなんだけど吸わないに越したことはないよ?」


「吸うか吸わないかはその人の勝手でしょ。」


この子押し強いなぁ……。


「はいはい、分かりました。でも絶対むせると思うけどね。」


タバコを渡し、火をつけようとすると私の吸ってるタバコの先から着けたがった。


「息を吸わなきゃ火はつかないよー。」


あててるだけではつかない。

タバコは吸わないと火は着かないのだ。


「あっそ。」


うまく着いたみたいだが、最初の1吸いでむせる。


「それ見た事か。」


「ほんっと……よく吸ってられるね……。」


「あのさ。」


「何?」


前から思ってた疑問をぶつける。


「なんでわざわざ私のところに来るわけ?」


「……確かに。」


「確かにって……自分でもわかってないんかい……。」


「でもなんて言うかな。

貴女には取り繕う必要が無いっていうか。

何言ってもいい気がしてるから……だと思う。」


確かに言われてみれば互いに気に入られようとはせず、思ったことをそのまま口にしている。


「確かに。私もあんたが来るとうわって思うけど、思ったことすぐ言うしなー。」


「……実は相性いいのかもね。」


「どうだろうね。」


プハァとタバコの煙を吐き出す。


相性……ねぇ……。


考えたことも無いことだった。


次の日、喫煙所にあの子は来なかった。

それだけですごくモヤモヤしてタバコの本数がいつもより増えてしまう。


「なーんで私はあいつのこと考えているのやら。」


疑問に思いつつ、その疑問に対しての問は出てこなかった。


次の日も、その次の日も来なかった。


「……あー!!もう!!あいつ何してんの!?」


「そんなに私の事考えてたの?」


「うお!?なんだよ!?

今日は来たのね!!

最近来なかったくせに!!」


「そんなに怒らないでよ。

私だって色々予定あるんだから。

ていうか、そんなになるほど考えるってあなた、私の事好きすぎじゃない?」


「……あ。」


あーーーーー……。

好きってこういう事かぁ……。

うわぁぁぁぁ……。


急に恥ずかしくなる。


「ばかぁぁぁ……。」


「まぁ、私もあなたのこと好きだけどね。」


「……何それ。」


「やっぱり居心地がいいの。

他の人と一緒にいても疲れるだけ。

でも貴女と一緒だと何も気疲れしないからね。

ここ会えない数日だって貴女なら文句言うだろうなぁとか考えてたし。」


その子がライターとタバコを取り出し、火をつけ、紫煙を燻らせる。


「あんた吸うようになったんだ?」


「好きな人のことって真似したくならない?」


「……あぁ!!もう!!」


その子の体を自分に引き寄せ、一瞬だが、唇を乱暴に重ねる。


そしてすぐ体を離し、地面に座り込む。


「ばかばかばかばか!!!!」


「これは告白ってことでいいの?」


意地悪そうに聞いてくる。

分かってて聞いてくる。

コノヤロウ。


「言うなぁァァァ……。

こんなん……初めだから……さ……。」


「まぁ私も好きだからいいんじゃない?」


座り込む私を立ち上がらせ、手をぎゅっと握ってくる。


「これからよろしくね。」


タバコの煙を私の顔にかからないように吐きながら笑いかけてくる。


その笑顔を直視出来ず、柄にもなく照れながら答える。


「……はい。」

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タバコ ネルシア @rurine

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