第51話「身なりの違い」
「そういえば、制服もしっかりサイズが合ったものになってるわね。それに髪型も整ってるし……お金に余裕ができた証かしら」
拗ねた春野先輩の相手を避けたのか、白雪先輩の興味が俺の服装へと移る。
この人本当に自由人だよね。
「まぁ、美優さんに口酸っぱく言われましたので……」
「これはうかうかしてられないわね、美琴」
「えっ?」
頬を膨らませてかわいらしく睨んでいたのに、よくわからない事を言われて春野先輩は途端に首を傾げる。
その様子を見て白雪先輩は本気で溜め息をついた。
どうしてわからないのか、と言いたげな様子だ。
「冬月君、髪型を整えてから何かクラスとかで変わった事ってなかった? 普段とは違うって感じの」
今度はこっちに質問を振られたけど、いきなりすぎて俺もよくわからない。
特段変わった事はなかったと思うけどね。
なんだかジロジロと見られてはいたけど、そんなのいつもの事だし。
あっ、でも、そういえば――。
「いつもは見られながら笑われているんですけど、髪型を変えて服もきちんとしたサイズに合わせてからはそれがなくなりましたね。見られてはいるのですけど、笑われてないというか、スマホと俺の顔を交互に見る子が多かったと思います」
普段ならクスクスと笑われるのに、ここ最近はすれ違っても笑われた記憶がない。
そしてスマホと俺の顔を見比べるような女の子がたくさんいた。
なんだろ、俺の変な写真でもネットに流れてるんだろうか?
「うわ、凄くネガティブな勘違いをしてそうな顔。これだから男は……」
「いや、そんな睨まれても困るのですけど……」
「あなた自分が有名人だって事忘れてるでしょ?」
はて、有名人?
あぁ、確かに学校では有名人だ。
ださい服装とか、貧乏人とかで有名だもんな。
みんな噂好きで困るものだよ。
「あっ、この子美琴と同じ匂いがする。類は友を呼ぶってまさにこの事ね」
珍しい、あの白雪先輩が額を押さえている。
後、俺の隣では一緒にされた事が嬉しかったのか春野先輩がニコニコ笑顔で体を揺らしているけど、絶対にいい意味じゃないんだよな。
本当にこの人は天然だと思う。
「あなた雑誌だけじゃなくて、テレビすら見ないでしょ?」
「えぇ、まぁ? 家にテレビはないですし」
「あんなに凄い大会で初出場なのに優勝――しかも高校生だったあなたを、メディアが注目しないわけないでしょ……! 当時は一部テレビ局の番組で取り上げられてるし、それ以来雑誌でおっかけになってる子たちだって多いのよ……!」
何それ、それも初耳なんですけど。
俺の追っかけとかその子たちは何を血迷ったのかな?
というかさすがにそれは嘘でしょ。
「そんなわけないじゃないですか。俺イケメンじゃないですし」
「イケメンだけがモテると思ってるのがそもそも間違いなのだけど……もういい、話してると疲れてくる」
やばい、呆れられた。
怒られなかっただけよかったけど、心の底から呆れられているのでちょっとショックだ。
「まぁどうせそこらの子が美琴から冬月君を取れるとは思わないから、そっちは心配してないし」
じゃあなんで話題に出したんだ。
もちろん先輩がいるのに他の子に劣情を抱いたりはしないのだけど。
「でもね、あなたの気持ちが動かなくても、今後あなたに付きまとってくる子たちは出てくる可能性が十分にある。その時、美琴がやきもちを焼かないわけがないでしょ? あまり度が過ぎるとこの子が何を始めるかわかったもんじゃないからそこが心配なのよ」
つまり、先程までのやりとりはこの話をするための前置きだったらしい。
うん、この前も車の中で嘘話にもやきもちを焼いていたし、春野先輩の行動力を考えると肝に銘じておいたほうがいいかもしれない。
刺されるとかはないと思うけど、普通に押し倒されそうだ。
「ふぶきは私の事を本当にどう思ってるのか今度真面目に話す必要があると思うの」
まぁ春野先輩は自分に対する白雪先輩の評価が納得いかず再び頬を膨らませているけどね。
ただ、正直俺も白雪先輩と同じ考えのためここで春野先輩に賛同する事は出来ないな。
とはいえ、白雪先輩の考えがかなり酷い被害妄想で、実際には俺に付きまとってくる女の子なんていないだろうけどね。
ただ、春野先輩にやきもちを焼かせないようには気を付けようと思う。
拗ねる先輩もかわいいのだけど、やっぱり笑顔でいていくれる先輩のほうが好きだからね。
まぁ本当にそんな事態が起きる事はないだろうけど。
――そう思っていた俺は数ヵ月後に白雪先輩が言っていた通りの事態に巻き込まれるのだけど、それはまた別の話。
今大切なのはまなの誕生日会の話だった。
「それで、わざわざ冬月君の妹さんのために料理を練習している事を言ってきたって事は、私にも手伝ってほしいって事かしら?」
一通り言いたい事は終わったのか、俺たちが本当にしたかった話題を白雪先輩が切り出してくれた。
ここら辺の察しの良さはさすが普段から生徒の上に立つ人だと思う。
「そうなの。とは言っても、人手が足りないと言うよりも、よかったらふぶきも参加してくれないかなって思っただけだけど……」
人手は既に確保できる準備が整っている。
まぁほとんどは美優さんの伝手なのだけど、とりあえずこちらで用意しないといけないほど人手に困る状況には陥っていない。
それでも白雪先輩に声を掛けたのは、春野先輩のお願いだった。
「どうして私が……言っとくけど、幼くても男の子だったら私優しく出来ないからね?」
いや、そこは優しくしてくださいよ。
と言いたかったけど、白雪先輩が言いたい事がなんとなくわかってしまい俺は口を閉ざした。
例えかなり歳が離れていようとも小学生の高学年にもなれば十分
白雪先輩はそういうのが嫌いなんだろう。
正直これだけなら白雪先輩はこない確率が高い。
女の子なら子供は好きなんだろうけど、男がいる場所にすすんでは行きたがらないだろうから。
でも――。
「夏目さんと話せるチャンスなんだよ? それに普段からふぶきが追っかけをしている人たちの料理を近くで見られるチャンスだし、一緒に料理もできるかもしれない。将来料理人兼パティシエになりたいふぶきにとって、またとないチャンスじゃないの?」
春野先輩が白雪先輩を連れていきたい部分はこれだった。
聞いて知った事だけど、お金持ちのお嬢様なのに白雪先輩は料理人とパティシエの両方になりたいらしい。
つまり、美優さんのようになりたいというわけだ。
本当に美優さんの事が好きなのか、もしくは自分がなりたいものになっている事で美優さんへの憧れが強いのかもしれない。
どちらにしても、これは白雪先輩にとって願ったり叶ったりだろう。
もちろん、美優さんにも許可を取っている。
最初は渋った美優さんだったけど、春野先輩から理由を聞いて快く了承してくれた。
あの人は本当に優しい。
「それは――行きたいけど……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます