第39話「羨ましい」

「あの、まなちゃんお口を開けてケーキを待ってたのに、冬月君がお話しててケーキを食べさせてくれないから拗ねちゃったんじゃないのかな?」

「あっ……」


 頬を膨らませているまなに首を傾げていると、春野先輩がその理由を教えてくれた。

 確かにまなにケーキを食べさせようとしていた事をすっかり忘れていた。

 そりゃあいくらまなでも怒るわけだ。


「ごめん、まな。はいあ~ん」

「あ~ん」


 ケーキを食べやすいようにフォークで一口サイズに切ってからまなの口に運ぶと、まなはすぐに機嫌を直してケーキを口に入れた。

 モグモグと何度か噛んだ後、ゴクンッと呑み込むまな。

 そして満足そうに頬を緩ませた。


「「か、かわいい……!」」


 女性陣二人はそんなまなにメロメロとなっている。

 自分たちの前に置かれているケーキには目もくれず、まなが食べている様子を凝視している。


 確かに幸せそうにケーキを食べるまなはとてもかわいい。

 二人が釘付けになってしまうのもよくわかる。


「おいしい?」

「んっ!」


 どうやらまなは美優さんの手作りケーキが大層お気に召したようだ。

 パクパクと次から次へとケーキを口に入れていく。

 というか入れてるのは俺なのだけど、まなが食べたらすぐに口を開くため入れるしかないのだ。

 まだ四歳だというのによく食べる。


「じぃー」

「……どうしました、春野先輩?」

「う、うぅん、なんでもないよ!」


 気付けば春野先輩がまなではなく俺の顔を凝視していたので声をかけると、ブンブンと両手を顔の前で振って何もないと言われてしまった。

 だけどチラチラと俺の顔を見てきている。

 どう見ても何かありそうだ。


「あぁ、なるほど」


 そして対面に座っていた美優さんが何かを納得したかのように両手を合わせて頷く。

 その表情はニマニマとしていてとても楽しげだ。


「何がなるほどなんですか?」

「いやね、みこちゃんはまなちゃんが羨ましいんじゃないかなぁって。ほら、優君に食べさせてほしいんだよ」


 美優さんの言葉を聞き、そんなまさかと思って春野先輩へと視線を向けてみる。

 すると、いつの間にか顔を真っ赤にしていた春野先輩が急いで俺から顔を背けた。

 美優さんの言葉を否定する事もなく、恥ずかしそうに俺から顔を背けている。

 つまりそういう事らしい。


「えっと、食べさせましょうか?」

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