第38話「気遣い」

「あ~ん」


 中に入れてもらって空いてるテーブルに座り、膝の上にまなを座らせるとまなが大きく口を開けた。

 早く食べさせろと急かしているようだ。


 テーブルに置いてあるケーキは四つで、どれもフルーツで綺麗に彩られたものだった。

 子供たちが喜ぶように今回はカラフルなケーキを作ったみたいだ。


「これをもらったらいいんですかね?」

「うん、そうだよ。優君やみこちゃんのもあるから食べて食べて」


 どうやら四人分あったのはまなと俺、後は春野先輩と美優さんの分のようだ。

 相変わらず用意がいいし、こういうところも経営者の素質なんだろう。


 だけど、ちょっと待ってほしい。


「用意して頂いててむしろ凄く助かってるのですけど、どうして春野先輩もこられるってわかったんですか?」


 春野先輩がここに来る事が決まったのは昼休みだ。

 そして美優さんが来ると思ってなかった俺は当然春野先輩が来ることを美優さんに連絡していない。

 だというのにどうして美優さんは春野先輩の分も用意できたのか凄く不思議だ。


「優君はまだまだ女の子の事がわかってないなぁ」


 しかし質問をすると、美優さんからはしょうがないなぁ、とでも言いたげな表情を向けられてしまった。

 ニマニマとしながら若干呆れたようにも取れる表情でこちらを見ているけど、そんなおかしな事を俺は言ったかな?


「付き合ったばかりなんだよ? そりゃあ離れたくなくて付いてきちゃうよね?」


 そう言って美優さんが視線を向けたのは俺ではなく、当たり前のように俺の隣に座った春野先輩だった。

 春野先輩は恥ずかしそうにしながらも小さくコクりと頷く。

 どうやらそういう事らしい。


「相変わらず尊いね~。まっ、そういう事だからみこちゃんの分も作ってきてたんだよ。もしこなかったとしてもその時は子供たちにあげたらいいだけだし」


 まぁ確かにそうだね。

 子供たちはケーキが大好きだから喜んで食べるだろう。

 というか取り合いになりそうだ。

 だから今は職員さんたちが使ってる部屋を一部屋借りて、孤児院の子たちが見ていないところでケーキを食べようとしているわけだし。


 こうしないと子供たちがケーキを欲しがってしまう。

 もちろん俺だけだったら全部あげるのだけど、今は春野先輩もいる。

 春野先輩もやはり女の子だからケーキは好きだろうに、子供たちが欲しがってしまえば優しい先輩は進んであげてしまうだろう。

 だけど、先輩は本当に優しい人だからあげる事に関してはネガティブな感情を持たない気がする。


 でも、やっぱり春野先輩も食べたいだろうから彼女が食べられるようにしたかった。


「ありがとうございま――どうしたの、まな?」


 美優さんの心遣いにお礼を言おうとすると、まなにグイグイと強めに服を引っ張られてしまった。

 視線を向けてみれば頬を膨らませて俺の顔を見上げている。

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