第36話「だっこ」
「「「「「大切なひとぉ?」」」」」
またもや仲良く声を揃えて首を傾げる子供たち。
幼いから言ってる事の意味がちゃんと理解できなかったのかな?
だけど彼女って直接的に表現するのは少し恥ずかしいんだよね。
それにこの子たちが彼女という言葉を理解できるかも疑問だし。
「えっと、よろしくね」
春野先輩は赤くした顔のまま腰を屈めて子供たちに視線を合わせる。
ニコッとかわいらしい笑みを浮かべているので、子供たちも安心した事だろう。
「お姉ちゃん、なんでお顔赤いの?」
「お顔まっかぁ!」
「おもしろ~い!」
うん、ばっちり子供たちに親しみを持たれたようだ。
だけど、多分望んでいた形ではないと思う。
まぁこの年齢だと顔を赤くする人なんてほとんど見た事がないだろうから、子供たちの興味がそちらに向いてしまうのも仕方ないのだけど。
でも指摘をされた先輩はとても恥ずかしそうだ。
子供たちに悪気がない分怒るわけにもいかないしね。
フォローしたほうがいいのかな?
そう思った時、クイクイッと服の袖が誰かに引っ張られた。
視線を向けてみると、100cmくらいの小柄な女の子が俺の服の袖を握りながらこちらを見上げている。
女の子はクリクリとした大きな瞳が特徴的で、髪は肩にかかるくらいの長さをした黒髪のはずだけど今日は猫耳フードを被っていてはっきりとはわからない。
この前買ってあげた服だけど、最近はずっと着ていると前に職員さんが言っていたね。
気に入ってくれてるようで何よりだと思う。
そしてこの子が、先程先輩と話していたまなという女の子になる。
まなは俺と目が合うと大きく両腕を広げて口を開いた。
「だっこ」
舌足らずな言葉で求められたのは抱っこをしろという事だった。
この子はいつもそうで、どうやら抱っこをされる事が好きらしい。
俺が訪れた時はいつも抱っこしろと言ってくるくらいだからね。
「おいで、まな」
「んっ……!」
腰を屈めて同じように両腕を広げると、まなが腕の中に飛び込んできた。
俺はそのまま落とさないように優しく抱きしめ、ゆっくりと持ち上げる。
身長が低いから全く負担にならない軽さだ。
まなはすりすりと自分の頬を俺の胸へと擦り付けてきて猫のように甘えてきている。
こういうところは本当にかわいい。
しかし、まなを抱っこした事で一つ問題が起きた。
「あぁ! まなちゃんばかりいつもずるい! みなもだっこ!」
「ねねもだっこ!」
小学一年生の二人が頬を膨らませて抱っこを要求してきたのだ。
グイグイと俺の服を引っ張ってきて抱っこしろと駄々をこねている。
「こら、危ないから引っ張ったら駄目だよ」
「むぅ! まなちゃんには言わなかったぁ!」
「まなちゃんばかりひいきぃ!」
なんで小学一年生が贔屓なんて言葉を知ってるんだ。
誰が教えたのかな、そんな言葉を。
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