第35話「子供たち」

 見た目は上品で大人っぽいのに、中身は子供のように無邪気な先輩。

 現に今もご機嫌な様子で俺の手をニギニギと握って遊んでいた。

 この行為が随分とお気に召してるらしい。


 これがギャップ萌えという奴なのかな?

 無邪気なところがかわいいと思ってしまう。

 だけど学校のみんなはこのかわいい春野先輩の事は知らない気がする。


 いつも噂に聞いていたのは、凄く綺麗な人だとか大人っぽい人だって事や、後は凄く優しくて凛とした人だという話ばかりだった。

 こんなに子供っぽくて甘えん坊だという話は一切聞いた事がない。


 正確にはわからないけど、このかわいい先輩を知っている人は大分少ないんだと思う。

 もしかしたら白雪先輩くらいかもしれないね。


 春野先輩には先輩なりに考えがあって凛とした生徒会長を演じてるみたいだし、別にそこに関して何かを言うつもりはない。

 ただ、他の人には見せてない部分を見せてもらえてるというのは少し嬉しかった。


「もうすぐ着きますね」

「そうだね……」


 先輩も孤児院の位置は完全に把握しているようだけど、孤児院を目指していたはずなのにもうすぐ着いてしまうという事に対して残念そうにしている。

 二人きりのこの時間が終わる事を残念に思っているみたいだ。


 正直言うと俺も少し残念に思っていた。

 なんせ一緒に歩いてる先輩はとてもかわいく、今の一時を幸せだと感じているからだ。


 だけど別にこの時間は今だけの物じゃない。

 これから先、先輩と付き合っていけば何度も訪れる時間だろう。

 だから今は次の楽しみとして取っておけばいい。


 ……返事、ちゃんとしないといけないね。


 先輩に対する気持ちをはっきりと認識した俺は、自分がしないといけない事を自覚した。

 ただ、話を切りだそうにも目的地には着いてしまったためそれはまた次の機会になりそうだ。


「――あっ! お兄ちゃんだ!」

「ほんとだ、お兄ちゃんだ! おーい、みんな! お兄ちゃんが来たよぉ!」


 孤児院に着くと、敷地内でサッカーボールを蹴って遊んでいた子供たちが俺を見つけ、大声を上げて他の子たちを呼び始めた。

 それによりゾロゾロと子供たちが孤児院の中から出てくる。

 そしてみんな俺に向かって駆け寄ってきたのだけど、ふと見た事もない人が俺の隣に立っている事を見て揃って首を傾げた。


「「「「「お姉ちゃん、だぁれ?」」」」」


 口を揃えて春野先輩に関心を抱く子供たち。

 今居る子たちは大きくても小学三年生までだから、純粋に興味を惹かれてるんだろう。

 小学六年生の子も数人いるんだけど、今は遊びに行ってるのかもしれない。


 春野先輩は自分で自己紹介してもいいのか、それとも俺に紹介してもらったほうがいいのか悩んだようで、視線だけで俺に確認をしてきた。

 別に春野先輩なら自分で自己紹介してもらっても問題ないだろうけど、やっぱり子供たちに安心感を与えるためにも俺から紹介しておいたほうがいい。


 俺は先輩に頷き、子供たちの視線の高さに合わせるために腰を屈めて口を開いた。


「この人は春野美琴さん。俺の……大切な人だよ」

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