第29話「高嶺の花は子供っぽい」

「興味……持ってないわね」

「あれ?」

「男の子に興味なんて持つわけがないじゃない」


 てっきり雑誌に載った事で白雪先輩に目を付けられたのかと思ったのだけど、先輩はそれを否定した。


 まぁ確かに、男嫌いの先輩が雑誌に載った程度で俺に興味を持つとは思えない。

 しかし――。


「ふぶきこそ、嘘つきだよ」


 プクッと頬を膨らませた春野先輩が白雪先輩の事を嘘つきと呼んだ。

 つまり、今しがた白雪先輩は嘘をついたという事になる。


「なんの事かしら?」

「うぅん、なんでもないよ」


 不機嫌そうに白雪先輩が視線を向けると、春野先輩はニコッと笑みを浮かべて返す。

 多分だけど、さっきまでの仕返しをしているつもりなのだろう。

 春野先輩はやっぱり大人っぽい見た目をしていても中身は子供らしい。


「えっと、先輩方? もうお昼休みも終わりそうなので喧嘩は――」

「「――してないよ(けど)?」」

「そうですね……」


 またじゃれつきあいが始まりそうな雰囲気だったので先手を打つと、二人揃って否定をされてしまった。


 なんだかもうこの人たちめんどくさい……!

 というのが本音になってしまう。

 とりあえずもう、白雪先輩には雑誌が理由で俺の事を知られてしまったけど、興味は持たれていなかったという話で済ませておこう。


 ……まぁ興味を持たれていなければ白雪先輩のような人は俺の事なんてすぐに忘れてしまうだろうけど、そこはツッコんではいけない。

 ツッコむと絶対にもっとめんどくさくなる。


「雑誌に載った事が原因で学業以外の事を優先して学校に来ていないと春野先輩に思われてしまったというわけですね」


 お二人の相手に疲れてきた俺は、少々自分の中で結論を出してから勝手に話を進める。

 一人だけ名指しをしたからか、それともやはり白雪先輩の言葉を信じたままでいるからかはわからないけど、俺の言葉を聞いた春野先輩が物言いたげな目を向けてきた。


 だけど、特に否定をしたりはしない。

 実際にそう思っていたという事なのだろう。


「コンテストを見に来られたのっていつですか?」

「今年の三月かな」

「……なるほど」


 今年の三月となると、俺が二回目のコンテストへ出た時に見に来ていたというわけか。

 ちなみに初めてコンテストに出たのは二月の中旬頃になる。

 二回目の時はなぜかすぐに大会に出るよう求められて違和感を覚えたものだけど、つまりあの雑誌が原因だったというわけだ。

 もっと怪しんでおけばよかったけど、初めて大会に出た時も二回目の時も話を持ってきた相手が美優さんの知り合いで押しが強い人だったから断れなかったんだよね。

 まぁ一回目は手が空いてる人がいなくて困っている美優さんを見かねて俺が自分から出ると言ったのだけど。


 最初は美優さんが止めてきたのだけど、バイトの俺が出ると言った事に対して美優さんの知り合いが呆れた態度をとってしまい、それが気に入らなかった美優さんがキレて俺に出て見返してこいと言ってきたのを覚えてる。

 さっき聞いた限りだと規模は小さくてもレベルが高いコンテストだったようだから、美優さんの知り合いがとった反応は当然だったんだろう。

 誰が聞いたって高校生の子供が何も知らずに身分不相応なコンテストに出ようとしているようにしか思えないからね。


 むしろあの時、翔太以外にはキレない美優さんがキレて半泣きにされていた美優さんの知り合いが今では可哀想に思える。

 大会が終わった後にはめっちゃ平謝りされたし、元々何度か会った事はあったから根が悪い人ではないと知っていたしね。


「ちなみにですけど、俺が出場するかどうかの情報は――」

「夏目君に吐かせ――教えてもらったわ」


 うん、今白雪先輩吐かせたって言おうとしたね。

 俺と翔太が仲がいいという事も予め知っていたのだろうし、翔太なら俺がコンテストに出るかどうかを知っていてもおかしくないと睨んでいたのだろう。

 実際翔太は知っているのだから白雪先輩の勘は正しい。


 だけど、無理矢理吐かせるのはどうかと思うな……。


 後この分だと、多分美優さんが翔太の姉だって事にも白雪先輩は気付いてると思う。

 苗字が同じだし、俺が美優さんの弟子だってわかってる時点でどこに接点があったのかと考えれば正解に行きつくのは難しくない。

 憧れの美優さんが近くにいると知っても、白雪先輩は春野先輩とは違って自重ができるようだ。


「なんだか今冬月君にばかにされた気がする」

「えぇ、ばかにされたでしょうね」


 あれ、今俺言葉にしてた……?

 いや、でも、気がするって言ってるから聞こえてないと思う。

 後、別に馬鹿にしたわけではないわけだし……。


「いやですね、俺が春野先輩を馬鹿にする事なんてあるわけないですよ」

「そ、そうだよね……!」


 笑顔で誤魔化すと、とても嬉しそうに春野先輩は頷いてくれた。

 これはあれだね、ちょろかわいいという奴だ。


「詐欺師が得意とする素敵な笑顔ね」


 そして相反するように俺の笑顔には騙されてくれない白雪先輩がとても辛辣な言葉をくれる。

 詐欺師と同じような扱いはさすがに酷くないかな?


 ……まぁ確かに、笑顔で誤魔化そうとしたのだけど。


「ふぶきは一々ケチをつけすぎだと思うの。私の……か、彼氏さんをいじめないでよ」

「そこは照れずに言い切りなさいよ」

「むぅ……!」


 あっ……また始まった。


 春野先輩は頬を真っ赤に染めながら俺を庇ってくれたのだけど、照れて噛んでしまった事で白雪先輩にツッコまれて頬を膨らませながら拗ねてしまった。


 この人はかわいい反応を見せるから白雪先輩が弄ってくるってわからないのかな?

 まぁわからないんだろうね。

 本人からしたら自分が周りからどう見られているかなんて見れないわけなんだし。


 ――そして、こんな事ばかりしていたせいでついに予鈴が鳴ってしまう。


「あっ、お昼休み終わっちゃう……!」

「結局ほとんど話は進まなかったわね」


 予鈴を聞いた二人は慌ててお弁当などをしまい始めるのだけど、白雪先輩のこれはツッコミ待ちなのかな?

 怖いからツッコまないけど、話が進まなかった大半の理由は白雪先輩のせいだと思う。

 おかげで知りたかった事が知れずにモヤモヤとした物が残ってしまった。

 このまま授業に戻るとかしたくないなぁ……。


「あ、あの、冬月君……!」


 ちょっと暗い気持ちになりながら先輩たちの事を見つめていると、何かを決心したような表情をした春野先輩が声をかけてきた。

 何かわからないけど、何かお願いをしてきたいんだなって事は昨日から見ていたのでわかってしまう。


「はい?」

「えっと、ご迷惑じゃなければ、私も一緒に施設に行ってもいいかな……?」


 そして春野先輩はもうお得意となってしまっている上目遣いで俺の顔を見つめてき、急に俺が育った孤児院に行きたいと言い出した。

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